2010/07/14
古書修復細心の注意
西尾市亀沢町にある古書の博物館、岩瀬文庫。豊富な専門知識を駆使して企画展を立案、人前で解説までやってのけるのが学芸員だ。そんな姿にあこがれて、仕事の一端を体験させてもらった。
「まず、手を洗って」。学芸員の林知左子さん(40)に言われ、面食らった。そんなに汚れていたかと、じっと手を見る。「大切な資料を汚したり、破損したりする恐れを取り除くことから始めます。ここではマニキュアも禁止」と林さん。腕時計も外させられた。
「岩瀬文庫の資料はお年寄りばかり。いたわりの心で扱って」とも。メモを取ろうと、ペンを取りだしたら「うっかりインクを付けてしまったら大変ですから」と代わりに鉛筆を渡された。
古書の修復作業に挑戦する。手にしたのは、和紙を糸でとじた「歴代文家一覧」。江戸時代後期に書かれたと聞き、緊張しながら糸のとじ直しをした。
古くなった糸を慎重に抜き取ると、長さ六センチの製本針を渡された。よく似た色の糸を選び、針穴に通して玉結び。家庭科で裁縫を学ぶ小学生の気分。林さんの手の動きをまねながら、恐る恐る原本の穴に針糸を通した。
糸がたるまないようにするのがこつ。出来栄えを尋ねると「初めてにしては、まずまず」と林さん。ただ、一冊の修復に三十分もかかってしまった。林さんは一冊を三~五分で仕上げるという。
次に、古書を収納する保存箱作りに挑戦。本のサイズを測り、見合う大きさの箱を作る。材料は、本に影響を与える酸性紙ではなく、高価な中性紙を使用。箱の片隅に日付とともに署名を書き入れる。林さんから「本とともに未来永劫(えいごう)、名前が残りますよ」と言われ、何だかうれしくなった。
書誌調査も体験。江戸時代後期に書かれた漢詩集「断香集」の成立年や編著者、内容などを調べる。「図書総目録」という辞典を引きながら、書誌カードに書き込む。著者は加賀金沢藩士の娘。二百年も前の時代を生きた縁もゆかりもない女性に親しみを覚えた。
この本はたまたまデータがそろっていたが、「破損していたり著者名が抜け落ちたり、調べがなかなか進まない本も多いですよ」と林さん。「でも、思わぬ発見があったり、面白さについ読みふけったりすることもあるんですよ」と目を輝かせた。(広中康晴)
【メモ】調査、研究で古書を扱うには学芸員の資格が必要。岩瀬文庫で働くには、西尾市職員に採用されることが条件となる。大卒の初任給は17万2200円。「こつこつと繰り返して取り組む姿勢が求められる」という。
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