2010/07/06
岐阜県羽島市の精密部品メーカー、岩田鉄工所が開発した、電動で伸縮するつえが好評だ。その名も「伸助さん」。今年1月に発売したが受注は半年で2000本に達し、生産が追いつかないため現在は一時、新規の注文受け付けを停止しているほど。もっぱらメーカー向けの部品を手掛けてきた同社が消費者向けの商品に乗り出したきっかけは、一昨年秋のリーマン・ショックだった。
岩田鉄工所は従業員40人。精密な金属加工技術が売りで、仕事のほとんどは産業機械や航空機などの業界向けだった。しかし、一昨年秋以降はメーカーの設備投資が激減。それまで月7000万円程度だった売上高は3000万円以下に落ち込んだ。
「従業員をどうやって食べさせていくか、不安で夜も眠れなかった」。社長の岩田勝美さん(57)は当時を振り返る。夜も寝付けず、枕元に置いた紙切れにひらめいたアイデアを書き込んでいった。
そうして思いついたのが「今後需要が伸びる福祉用品の分野には案外、高度な加工技術が使われていない。自分たちの技術が生かせないか」。
工場の稼働時間が減った昨年初めから従業員とともに試作品づくりに着手。握りの部分のスイッチを押すと自在に伸び縮みする「伸助さん」の開発では、重さが課題になった。充電池が入っているため試作当初は800グラムを超え、高齢者が持つには重すぎた。
つえの内部のジュラルミンを強度を保ちながら極限まで削るとともに、強くて軽いカーボン素材を外部に使い、370グラムという軽量化に成功。価格は2万2000円からと高価だが、利用者のひざへの負担を和らげる画期的な製品として話題になった。「高齢の親へ贈りたい」。“親孝行グッズ”としての注文も多く寄せられた。
同社はこれ以外にも、本業の精密加工技術を生かしたアイデア製品を続々と市場に送り出している。回転式の電動草取り機「抜けるンですD」、電動で伸び縮みするマイクスタンド「マイクジョーダン」…。水門の開閉器「すぐれ門」は、農業用水向けの需要が期待されている。
「これまで培ってきた精密加工技術の集大成として、アイデア製品に取り組んだ。コア技術を生かす大切さを不況が教えてくれた」と岩田さん。本業の受注も上向いて売上高は月6000万円にまで改善、さらに攻勢に打って出る構えだ。
(石井宏樹)
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