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やってみました 記者たちの職業体験ルポ コチョウラン栽培

2010/06/30

大輪輝かす技と熱意

 花の生産が盛んな豊橋市。中でも大輪が咲き並ぶゴージャスなコチョウランは全国一の生産量という。たまには、こんな花をさりげなく贈ってみたい。その参考になればと、全国最大級の規模で栽培する豊橋市東七根町の「松浦園芸」の温室におじゃました。
 体験させてもらったのは出荷前の仕立て。鉢に移し替えたコチョウランの花を前面に押し出す。三本の株を一鉢に立てる「三本立ち」に挑戦しようとしたところ、「市場価格では一鉢数万円です」。軽い気持ちでいた記者は凍り付いた。

 九年勤める社員高瀬雅之さん(38)に指導していただく。「左右はハの字で対称に。正面から見たとき、一番上の花からすき間なくきれいに並ぶようにします」。支柱となる金属製の針金を前面にカーブさせ、それに茎をそわせてテープでとめるのだが、記者の手つきはぎこちない。「扱いは優しく。茎がポキッと折れることもあります。針金で花を傷つけないように。つぼみも落ちたら商品になりません」と気が抜けない。

 針金も思うように曲がらない。「本当は一回でうまく曲げられるようになった後、『一本立ち』から始めるんですよ」と高瀬さん。結局手伝ってもらいながらも、一鉢に三十分以上かかってしまった。高瀬さんら熟練者は十分以内で仕上げる。微妙な感覚が頼りで、三本立ちを担当するには通常一年くらいの経験が必要という。

 コチョウランは花を咲かせるまで、時間と手間がかかっている。松浦園芸では、無菌培養したクローン苗を九州南部やタイなどの東南アジアの業者に委託。二年ほどじっくり育て、強い根を張らせる。その後、成長した株を湿度と温度が管理された同社の開花室へ移して約半年後、ようやく美しい花が咲く。

 その中から鉢に立てるのは、花の大きさがそろった株。仕立てでも花が隠れないように気を使う。社長の松浦進さん(64)は「同じ輪数でも仕立てでボリューム感が変わる」と工夫を語る。

 コチョウランは水をかけすぎないようにすれば、二~三カ月は花が咲くという。「長く最後まで、きれいに楽しんでもらいたいので」と松浦さん。人を喜ばせる美しさは、生産者の熱意が支えていた。(石屋法道)

 【メモ】栽培のほか、仕立てや袋かけなどの仕事がある。資格は必要ないが、約半年の見習い期間が必要。美的感覚や花への愛情が求められる。社員で月給20万~30万円台が一般的で、パート従業員もいる。根が詰まったカップ内は水ゴケと木のチップで、温室内に土はない。豊橋市の2007年度のコチョウラン出荷数は約50万鉢、生産額は8億3000万円。全国一の産地とされる。

1鉢に3株を立てる「3本立ち」の仕立てをする従業員=豊橋市東七根町の松浦園芸で
1鉢に3株を立てる「3本立ち」の仕立てをする従業員=豊橋市東七根町の松浦園芸で