2010/06/26
佐藤友子さん(36)=仮名、名古屋市=は、小中学生三児の母。二年前に離婚し、その後、ヘルパーの資格を取得。パート職員として、高齢者のデイサービスセンターで働いている。
三月までは、一日八時間、週四日の勤務で、給料は月十二万円ほど。賃貸住宅の家賃だけで約七万円かかる。所得と子どもの数に応じ、国から支給される児童扶養手当などの公的支援が不可欠だ。
一般に母子家庭は、所得が少なくなりがちだ。厚生労働省調査では、二〇〇五年の母子家庭の平均所得(総所得)は二百十三万円で、全世帯平均の四割にも満たない。八割以上が就労しているものの、生活保護や児童扶養手当を除く就労収入は百七十一万円にすぎない。
神戸学院大の神原(かんばら)文子(ふみこ)教授(社会科学)によると、雇用慣行のために結婚、出産で仕事を辞める女性が多いのが原因だ。
「その後の就職先は、低賃金で不安定な非正規雇用が多くなる。保育環境が不十分なため、ひとり親の働ける職場の選択肢は狭まり、賃金がさらに低くなる傾向がある」と同教授は言う。
日本家族社会学会による〇四年の全国調査では、十九~二十四歳の第一子が大学に進学した割合は、全体で39%だったのに、母子家庭は12%。同教授は、余裕のない経済状況が子の進学にも影響を及ぼしていると指摘。「児童扶養手当は子が十八歳になった年度で打ち切り。安いはずの国立大の授業料も今は年約五十三万円になるなど、厳しい環境」と話す。
「子どもが成長して、お金がかかるようになってからの支援が手薄なので心配」。今は生活が成り立っている佐藤さんも将来への不安を感じ、より高い時給が得られる看護師の資格を取ろうと、四月から平日の午後、看護学校に通い始めた。
平日は勤務を短縮したため、収入が半減。初年度で七十万円かかる学費も負担だ。それでも生活が成り立つのは、学校に通う間の生活費・学費として、毎月最大で十四万一千円(住民税非課税世帯)が国から支給される「高等技能訓練促進費」のおかげ。
この制度は、ひとり親がより高い収入を得るため、資格の取得を促す制度。児童扶養手当の削減策と引き換えに、小泉政権時代の〇三年に始まった。
当初は、修学期間のうち最後の三分の一しか給付金が出ないなど、使い勝手が悪かった。昨年の麻生内閣で、全通学期間、支給されるよう改められた。保育士、作業療法士なども対象。自治体によっては、栄養士なども対象になる。
「全期間、給付されない以前の仕組みでは利用できなかった。頑張れば自立できるようなバックアップを充実させてほしい」と佐藤さんは考える。
ただ、同制度に対しては、女性の失業中の場合などに生活費など支援の上積みが必要との指摘もある。全期間で給付金が受け取れる措置も当面、一二年三月の入学者まで。その後どうなるかは国の判断にかかっている。
神原教授は「もう少し支援対象となる資格に幅があれば」としつつ、同制度を評価する。その一方で、「普通に働いて生活が成り立たない状態や、働けない状況を解消しないと」と指摘、キャリアアップ支援策と並行して、最低賃金の引き上げや、ボランティアも活用した保育環境の整備などを求める。
◇
参院選マニフェストでは、民主党が雇用格差是正やワークライフバランス(仕事と生活の調和)への取り組みを挙げ、自民党は母子家庭などが子育てと就業を両立できるような環境整備を主張。公明党や共産党、社民党なども子育ての環境整備と、最低賃金引き上げに触れるなど、ひとり親家庭の支援に関する政策を掲げている。 (佐橋大)
転職・求人情報検索(名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県)はトップから