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【暮らし】経験したから伝えられる 食育担う学生が米作り指導

2010/06/22

 管理栄養士を目指す東京家政大学の学生たちが、米作りの経験を生かし小学校で食育に取り組んでいる。米生産や商品企画を実践したことで、子どもたちに実感を持って食の大切さを教えられる。将来は学校で食育を担う学生たちの奮闘が続く。 (安食美智子)

◆東京家政大、小学生に
 「鉛筆を持つ手できたかな? そのまま苗を数本取って、ぐっと挿してね」

 今月四日、東京都中野区の区立武蔵台小学校の田植えの授業。校内の水田前に並んだ小学五年生八十人を前に、Tシャツにもんぺ姿の同大栄養学科三年、神山絵未さん(20)ら七人が米作りの流れと苗の植え方を教えた。

 苗は二〇〇四年の新潟県中越地震の際、腎臓病の透析患者たちが、タンパク質などの食事制限により避難所で食べられる食事がなく困った経験から、生産が広まった品種「春陽(しゅんよう)」だ。子どもたちは、なにげなく食べる米も食べられない人がいて、支援が必要なことも学ぶ。

 田植え体験に福田みなみちゃん(10)と長島優那ちゃん(10)は「泥に足が取られて難しかった。収穫が楽しみ」とうれしそう。松本恵美子校長は「子どもたちが親しみやすい家政大の学生が入れば、イネが単なる教材にとどまらない。イネの背景まで見える」と話す。

◆幻の米栽培、商品開発
 授業は、幻の酒造米といわれる「白藤(しらふじ)」を復刻する「白藤プロジェクト」の一環だ。同大の中村信也教授(公衆衛生学)、酒造会社「上原酒造」(新潟市)、米の生産農家でつくる「エコ・ライス新潟」(新潟県長岡市)が進めている。

 中村教授は〇七年に同大栄養学科の学生に参加を呼びかけ、栽培が始まった。翌年、学生らは白藤を使った日本酒「白藤郷」を仕込み販売した。「女性向けの苦くないビールを」と「白藤ビール」も開発。化粧水、みそ、菓子類など商品企画に取り組む一方で、米の成分分析も担当した。こうした活動には卒業生も含め十八人が参加したという。

 昨期のリーダーで学校給食作りを担当する栄養職員を目指す同大四年、高木彩さん(21)は年間十六回、深夜バスなどで新潟に向かった。「食べ物が生み出されるまでに長年の経験と歳月が必要と知り、感動した。子どもたちに教える際の説得力につながると思う」

 学校現場で食育を担う栄養教諭を目指す神山さんも「子どもたちにも体験の大切さを伝えたい」と意気込む。

◆“実践”減り危機感
 学生らが現場を重視する背景には、資格取得を目指す管理栄養士の養成カリキュラムが座学中心で、生産や加工体験など実践に当たる部分がほとんどない現状がある。

 「問われる食育と栄養士」(筑波書房)の共著者で管理栄養士の養成に詳しい管理栄養士・河合知子さんは、国の養成カリキュラム改正(〇二年)によって、食を生活全体のなかで位置づけたり、生産や流通から食卓まで一連の流れのなかでとらえる科目が著しく減少したと指摘。

 「食育の現場で栄養教諭や管理栄養士に問われる、食育計画立案やそれを確実に実行する実践力、地産地消のために必要な地元農家とのネットワークづくりや、他教員との連携の視点が養成カリキュラムにはない」と分析する。

 中村教授は「理論と実際は違う。実践がなければ栄養士は育たない」と人材育成の重要性を訴える。