2010/05/19
「『カウンセラーと約束したから、自殺しなかったよ』などと手紙が届きます。励みになりますね」
企業従業員などの悩みに応えるメンタルケア会社「セーフティネット」(東京都千代田区)。その一室で、約十人のカウンセラーを見守る社長の山崎敦さんの表情がゆるんだ。
同社には産業カウンセラー六十人と看護師十人が相談員として在籍し、契約する約四百五十企業の社員やその家族から相談を受ける。外国語スタッフや弁護士、精神科医とも連携。二十四時間体制で従業員を支える。
「自殺は遺書があるものはたった三割で、残りは発作的。よく『サインを見逃すな』『普段からコミュニケーションを取れ』と言うけど、そんな簡単なものじゃない」
神奈川県の海上自衛隊横須賀基地近くで育ち、パイロットを夢見ていた。防衛大学校卒業後、海自に入隊。念願のパイロットとして活躍した。
しかし、定年直前の六年間に、勤務地の青森、千葉で直属の部下三人が次々と自殺した。自殺した一人は、その前日に別の部下と食事をした。そのときは何の前触れもなかったと聞いた。
「親しい人間関係があったのに防げなかった。もっと積極的に関与できる場が必要。みなまじめ。いつでも相談できる所があれば、救われたはずだ」
定年を待たずに退職、二〇〇一年に同社を設立した。
同社のケアは、能動的だ。山崎さんは海自時代の苦い経験から、通常相談とは別に、相談員から従業員に電話をかけるカウンセリングを行う。年四回健康状態の確認と悩みを聴く。愚痴をこぼしにくい管理職を中心に、応援する業務だ。
業界では常識破りなケア。当初は混乱もあった。「カウンセラーとしてやるべきことか」と訴える相談員に、「そんな(常識を守る)ために会社をつくったんじゃない」と譲らなかった。
「自殺は、相談に来るのを周りが待っていたら遅い。死んでしまう」
「生命保険で借金を返したい」とかけてきた電話などサインをつかめばすぐに対応する。迅速さも命を救うと強く思う。
「自殺衝動を抑えられるのは本人だけ。一番苦しんで死ぬなんてばかばかしい。苦しみは放物線。少しずつ和らぐ」
座右の銘に中国の古典「淮南子(えなんじ)」の「行年(ぎょうねん)五十にして四十九年の非(ひ)を知り、六十にして六十化(か)す」を引いた。五十歳でこれまでの人生の誤りを知り、後の人生を努力して変わっていくことのたとえ。
「相談件数を増やし、うつ病予備軍レベルまで対応できるのが目標。年を重ねるだけ進化し続けたいですね」 (安食美智子)
■若い世代へ 格好悪いのはみんな同じ
相談を受けていると、人の見えに気付かされる。自分の生きざまへの見えは風流だが、周囲を気にするスケベ心はいらない。人によく思われたい傾向は特に若者に強い。弱音なんか吐いてもいいじゃないか。君同様みんな格好悪いんだ。見えが邪魔するから現状を受け入れられない。「自分の生きざまは決して恥ずかしくない」と思うことだ。そして「苦しんでいいんだ」と自分に許しを与える心構えが大事。がんばり方を間違わないでほしい。
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