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やってみました 記者たちの職業体験ルポ パティシエ

2010/05/19

喜ぶ顔思い浮かべ調理

 女の子あこがれの職業ランキング一位の常連、ケーキ屋さん。大忙しの母の日、無謀にも不器用な男性記者が入門した。師匠は、フランス語で“笑顔”を意味する店名「ビサージュ・スリアン」(幸田町桐山)のパティシエ小松静香さん(35)。
 「清潔さは必須。髪の毛が落ちないように」と手渡されたのは、高さが三十センチもあるコックハット。一緒に借りた真っ白のコックコートを着れば、格好だけは立派な職人に見える。ちょっとだけ背筋を伸ばして、厨房(ちゅうぼう)にお邪魔した。

 挑戦するのは「母の日デコレーションケーキ」作り。スポンジは準備していただいたので、まず泡立て器とボウルで、生クリームをかき混ぜる。が、三分もすると「それじゃ日が暮れちゃうな」と小松さん。バトンタッチすると、さっきまで一向に固まらなかった液体がたちまち、いつもお店で見るふわふわの生クリームになった。

 続いて、重ねたスポンジに挟むイチゴをカット。怪しい手つきを心配する小松さんの視線が痛いが、何とか十個ほど、厚さ七、八ミリの板状に切り分ける。監視が厳しい。つまみ食いは遠慮した。

 最後は飾り付け。「見えないところもケチらない」という小松さんの主義に従い、スポンジの間にもイチゴをびっしり敷き詰める。スポンジは、陶芸のろくろに似た回転台に乗せ、大きなヘラのような業務用パレットナイフで、クリームを均等に伸ばす。記者の腕では、凸凹が残るが、目をつぶってもらう。

 仕上げは、温めて溶かしたチョコレートを絞って板チョコに文字を書き、ケーキの真ん中へ。生のケーキは三百キロ以上離れた故郷の母には届けられないが、感謝を込め、震える手でゆっくり「お母さん、いつもありがとう」としたためた。

 一部不格好ながら、なんとか完成したケーキ。小松さんは「ケーキ屋さんは人の笑顔を作る仕事だから、相手が喜ぶ顔を思い浮かべて。形より、心だよ」と思いやりあふれる言葉をくれた。良かった、心だけはこもっている。厳しくも優しく育ててくれた母に感謝。(中野祐紀)

 【メモ】特に資格は必要ないが、個人店やホテル、レストランなどで修業する。その間の月給は10万~15万円程度。小松さんは専門学校で調理師免許を取り、名古屋市内や蒲郡プリンスホテルなどで約10年間働きながら製菓衛生師の資格を取って独立した。最も忙しいクリスマスイブは、前日から徹夜で200台近いケーキを作ることも。「下積みも力仕事もある。気合を入れて目指して」と小松さん。

手早くケーキを飾り付ける小松静香さん=幸田町のビサージュ・スリアンで
手早くケーキを飾り付ける小松静香さん=幸田町のビサージュ・スリアンで