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やってみました 記者たちの職業体験ルポ 古たんす再生

2010/05/12

思いに応え真剣修理

 「戦後間もないころの新聞がたくさんあるんですが。子どもの歴史教育とかに生かせないでしょうか」。ある日、碧南市の臨海部に近い大浜上町でたんす工房を営む石川光司さん(62)からファクスが入った。持ち込まれるたんすの引き出しに敷いてあったという古新聞にも興味がわいたが、まずはたんす再生の技術を体験させてもらった。
 修理を依頼されたたんすと、のみ、かんな、のこぎりといった道具が所狭しと並ぶ板敷きの工房は木のにおいがした。石川さんと、修業中の三男郁磨さん(23)が笑顔で迎えてくれた。

 桐(きり)たんすともなると、新品に買い替えれば百万円以上。石川さんの工房での修繕費は十万~十五万円、交渉次第でもっと安く済む。「お金だけの問題ではなく、亡き母や祖母の形見という特別な思いで依頼する人が多い」。五十~百年たった古たんすが美しい木目が浮き上がり、見違えるように再生した写真を何枚も広げ、「それだけにこちらも真剣勝負です」と石川さん。

 「かんな、のみの扱いが基本」との言葉に、早速挑戦してみた。本体から引き出しを抜き取り、金具を外す。黒ずみ、虫食いの目立つ引き出しの前面にかんなの刃を当てる。なかなか真っすぐに引けない。欠けてしまった角の部分を直すため、のみで削ろうとするが、危なく指を切りそうになった。

 二人が心配顔で指導する中、木片をのこぎりで適当な大きさに切って接着剤で付け、もう一度かんなをかける。なんとか引き出しがきれいになり、体裁を整えた。ズボンが木くずだらけ。「合格点ですよ」と石川さんが苦笑した。

 仕上げは水をかけて特殊な洗剤で洗った後、柿渋など自然の塗料を使う方法や、バーナーであぶったり、焼いたこてを当てる「焼き桐」などがあると、説明してくれた。特に、焼き桐は年月がたっても風合いが変わらず、人気という。割れた底板のすき間を埋めたり、新しい板を張る作業もある。

 石川さんは「依頼主から届いた感謝の便りを宝物にしている」とほほ笑む。「採算は合わないが、お客さんがいるから」。顧客が喜んでくれる生きがいと、古くなった物を大切にする心が伝わってきた。(早川昌幸)

 【メモ】特に資格は必要ないが、弟子入りして一人前になるまで最低5年はかかるという。たんす1さおの修理にかける時間にもよるが、月収40万~50万円の職人も。石川さんは50歳を過ぎてから名古屋の専門店で修業し、15歳から始めた木工職人の基礎があったため、2、3カ月で独立した。

愛着のある古たんすの再生に取り組む石川さん親子=碧南市大浜上町で
愛着のある古たんすの再生に取り組む石川さん親子=碧南市大浜上町で