2010/04/21
リンク整氷『奥深く』
バンクーバー五輪や世界選手権での、日本フィギュアスケート陣の活躍は記憶に新しい。その中心選手となる浅田真央選手らは、主な練習拠点を、豊田市の中京大アイスアリーナに置いている。リンクをいつも万全な状態に整え、選手の活躍を陰で支えるのが整氷員。刻々と表情を変える氷と向き合う通称「アイスマン」を体験した。
指導役の皆川慎市さん(33)は二〇〇七年のオープン以来、アイスマンを務めている。中京大の施設管理をするビル管理会社に所属する皆川さんは「面白そうだし、やりたい」と手を挙げた。
選手たちの練習が終わった午後十時前、この日最後の整氷が始まった。記者に任された仕事は、整氷車などの刃が届かないリンクの端を専用の工具で削る作業だった。皆川さんによると、刃が届かない壁際は氷面が中心部より高くなる。二日に一度は、専用の小型機械と手作業で削っている。
早速、底をきれいにした長靴で、リンクに足を踏み入れた。壁に沿って氷を削る。先端に平たい刃の付いた「ケレン」に両手で力を入れると、足を取られて転びそうになった。
周囲百八十メートルのリンクの三分の一をすぎたころ、汗が出てきた。小型機械を操る皆川さんとの距離は開く一方。少しでも距離を詰めようとするが、なかなかうまくは削れない。こつをつかむまでに、一周かかってしまった。
続いて、整氷車による整氷。一息ついていると、皆川さんから「運転してみますか」と声をかけてもらい、整氷前の試運転に挑戦した。
後部の運転席に座って、アクセルを軽く踏み込む。重低音とともに車は動きだした。アクセルを離すと、整氷車は止まる。
恐る恐る運転していると「車体が大きいので、遠くを見ながら運転するのがこつ」と助言を受けた。リンクの壁に沿って、ゆっくりと走らせた。
一周して皆川さんと交代。記者とは比べものにならない速さで車を操り、氷面を整えていく。スピンやジャンプの着氷で傷ついた表面も滑らかに。作業は十五分ほどで終わった。「最初のころは倍以上かかっていた。一、二年たって、ようやくうまくできるようになった」と教えてくれた。
「氷は奥深い。まだまだ学ばないといけない」。選手とともに皆川さんの挑戦は続く。(杉山直之)
【メモ】資格は必要ないが、冷凍機などの設備管理ができるとよい。朝から夕方までは1人、夕方から夜までは2人体制で作業する。初任給は18万~19万円程度。
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