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【暮らし】<うぇるかむシニア>転機58歳今も挑戦  地域の緑を守る樹木医 古谷信さん76歳

2010/04/21

 「幹をたたいて太鼓みたいな音がすると、幹の中が腐って空洞になっている。この木は大丈夫」

 東京都足立区の花畑記念庭園桜花亭。同区在住の樹木医古谷信さんが木づちを使った樹木の健康診断方法を解説する。

 「現役時代、樹木医をするなんて思いもしなかった」と笑う。

 現役時代、金融機関に勤めたり自営のコンサルタントもした。「総務、経理畑で、仕事上の必要もあって社会保険労務士とか十数種の資格を取った」

 転機は五十八歳で迎えた。当時、創業にかかわり四十代から働く茨城県古河市の車販売会社に勤務。車で往復二時間余りを通勤した。腰に負担が蓄積し痛みが耐えられなくなった。受診すると椎間板(ついかんばん)ヘルニアだった。医師に「運転をやめ、手術を受けなければ寝たきりになる」と忠告された。

 定年前の退職を決意。収入が大幅に減るため、生活設計を模索した。「好きだった高校の生物の先生のことをふと思い出した」

 恩師は野外で動植物を教材に楽しい授業をしていた。生物への興味がよみがえった。ヘルニアは手術をせず、筋力強化など生活改善に努めた。「植木をやろう。体を動かして筋力をつけられる」

 植木職人なら収入も得られる。養成する職業訓練校への通学を決め、妻の理解も得た。

 翌年、定年まで一年残して退職。職業訓練校入学を待つ間、「子どもたちに植物の話をしたい」と同区に相談した。

 「『資格がないと難しい』と言われ、樹木医の資格を取ろうと思った」

 樹木医は日本緑化センターの認定資格。応募には診断・治療など業務経験七年以上という条件があった。訓練校を終えた後、大手企業に嘱託の植木職として勤務しながら、放送大学で菌類などについて学んだ。

 九年経験を積んだ二〇〇三年、樹木医に初挑戦。同年の最年長の合格者になった。

 〇五年、足立区から約六百本ある保存樹木の育成診断の仕事を樹木医として任される。江戸時代の屋敷林が残る公園整備も協力、地元小学校に植樹の指導もした。

 「子どもたちと話すのは楽しい。地域の緑を減らさない取り組みに、参加する一人でありたい」

 活動の場は広がる。今年、定年を控える人を支援する東京都中高年勤労者福祉推進員の養成講座を受講する。転職や早期退職、社労士など自分の知識・経験を役立てたいという思いからだ。

 「退職後の生涯設計をする人は少ない。六十代からの新しい人生への挑戦を応援したい」

  (飯田克志)

<若い世代へ>仕事に関する資格を
 ぜひ身近なことから勉強してほしい。教わるだけでなく、自分から探し求める、探求ですね。それがなぜいいかというと他人から押しつけられた目標ではなく、自分で選んだ目標だから長続きする。今の私は樹木医。樹木医は学ぶことの幅が広くて奥が深い。日々に倦(う)むことのない目標です。それと現代は資格時代。仕事に関連する資格を一つでも自分のものにしてほしい。今の仕事についてあらためて考えられるし、必ず将来に役立ちます。

樹木の幹に空洞がないか調べる古谷信さん=東京都足立区で
樹木の幹に空洞がないか調べる古谷信さん=東京都足立区で