中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

やってみました 記者たちの職業体験ルポ ブラジルスーパー店員

2010/04/14

異国の同胞 食で支える

 ブラジルが誇るナショナルサッカーの代表チームカラー、カナリアイエローに塗られた建物が以前から気になっていた。岡崎市上和田町のブラジルスーパー「Bolao(ボロン)岡崎店」。勇気を出して、店内へと進んだ。
 ポルトガル語表記の食料品や雑貨が並び、彫りの深い顔立ちの客たちが目に飛び込んできた。奥から現れたのは、店長の高津フランキ哲男さん(36)。日系二世で足元にタトゥーが見える。「日本の新聞記者ですが仕事させてもらえませんか」。恐る恐るお願いした。

 「取材うれしいよ。派遣切りとかでブラジル人がどんどん帰国して寂しくて。日本人にもうちらの店に来てほしいんだ」。意外にも哲男さんは快く受け入れてくれた。

 レストランコーナーのスタッフに挑んだ。最初に任されたのは鶏肉コロッケ・コシンニャ作り。衣をつけて油の中に入れ、こんがりと揚がったところをおたまですくい上げる。

 「手つきが危なっかしいよ。家であまり料理してないでしょ? ブラジルの男の人は家のことやるよ」。哲男さんの妻ナージア正美さん(30)はお見通し。三年前に結婚して以来、ほとんどの家事を妻に押しつけてきたわが身を恥じた。

 手作りフランスパンはホカホカの食感が自慢。オーブンで焼き上げる作業に慣れ、それだけに夢中になっていると、ナージアさんからすかさず指示が飛ぶ。「ブラジルの人たちは料理がそろってないと、許してくれないのよ」

 レストランは九百八十円を払い、シュラスコと呼ばれるくし焼き肉やサラダ、スープなど約三十種の料理を楽しめるバイキング方式。スタッフは残り少なくなった料理を確認して、素早く補充することを求められる。全体に目を配ることが必要なのだ。

 ウエーターとして客席へ。客の大半はブラジル人だ。「ボア・タルジ(こんにちは)」。習いたてのポルトガル語であいさつし、食器を下げると、ブラジル人の家族が「オブリガード(ありがとう)」の言葉をかけてくれた。

 「ブラジル生まれでも、毎日ブラジル料理ばかり作るのは疲れるよ。でもね、温かい人たちに出会えるし、みんなに喜んでもらえるのはうれしいね」とナージアさん。母国を離れ、異国で働く同胞らが支え合って生きている。

 「日本人にも来てほしい」との哲男さんの言葉に偽りはないだろうが、ナージアさんの言葉に、彼らが生きる世界が少しだけ分かった気がした。(相坂穣)

 【メモ】Bolaoはサッカーボールの意。ナージアさんの母で日系一世の畠山文子さん(63)が社長。製造業に従事するブラジル人が多い三河地方を中心に7店舗を展開。従業員約50人のほとんどがブラジル人だが、やる気があれば日本人も歓迎。学歴、資格は不問だが、ポルトガル語はできた方が良さそう。正社員は初任給21万円。アルバイトは時給900円。6月に開幕するワールドカップに合わせ、大型スクリーンによる観戦イベントも開く。

手作りのブラジル料理で同郷の人たちを喜ばせる高津フランキ哲男さん(左)=岡崎市上和田町のBolao岡崎店で
手作りのブラジル料理で同郷の人たちを喜ばせる高津フランキ哲男さん(左)=岡崎市上和田町のBolao岡崎店で