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【暮らし】学童保育充実の政府方針 指導員 課題多く

2010/04/15

不十分な待遇 大半が非正規職員、社会保険なし

 共働き家庭の小学生が、放課後の時間を過ごす学童保育(放課後児童クラブ)。政府が一月にまとめた「子ども・子育てビジョン」では、利用児童を五年間で三十万人増やすことを目標に、学童保育の量的拡大と質的拡充の方針が示された。しかし、指導員の待遇が不十分な上、資質を問題視する声も。地域格差も大きいなど課題は多い。 (福沢英里)

 愛知県江南市の公立の学童保育所。十八畳ほどの部屋に五十人近い児童がひしめき合う。二人の指導員が昼食後の片付けに追われていた。「雨の日は大変。体を持て余した子どもたちで身動きが取れない」と女性指導員は、ため息をついた。

 月曜から土曜まで五人の指導員が交代で働き、常時二人で三年生まで約六十人の児童をみる。この女性は一日四~五時間程度で月十五回ほど出勤、月給は約七万~八万円。社会保険はない。閉所時間を過ぎても迎えが来なければ子どもと待つが、残業代はつかない。

 静岡県内の女性は、十年余勤めた学童保育の指導員を三月末でやめた。同僚の指導員が勤務中、児童がぶつかってきた反動で後ろに倒れて後頭部を打ち、一時意識を失う事故があった。

 しかし、同僚は、行政から委託された運営団体に「有償ボランティアだから」と労災申請に応じてもらえず、加入していたスポーツ保険から一日千円の治療費が出ただけだった。一緒に行政に掛け合っても「代わりはいるから」とあしらわれたという。女性は「勤務中の事故が補償されない環境が怖くなった」とやめた理由を話す。

 全国学童保育連絡協議会(東京)の調べ(二〇〇七年)では、全国に指導員は約六万四千人おり、大半は保育士や教諭などの有資格者。しかし、公営でも正規職員は4%しかおらず、多くが非常勤、パートなどの非正規職員だ。「退職金がない」(71・3%)「勤続年数が増えても賃金は上がらない」(53・3%)「社会保険がない」(37・5%)など、安心して働ける環境にはほど遠い。

 真田祐事務局次長は「働く環境の悪さは、そのまま子どもの生活や育ちに影響を及ぼす」と指摘する。

 一方で、指導員の資質を問題視する声も。

 愛知県内のある保護者は子どもを学童保育に通わせたところ、半年余りで情緒不安定になり、やめざるを得なくなった。理由は指導員の陰湿な行動。指示に従わなかったり、忘れ物をすると、「おやつ抜き」といった罰を与えていたという。先の調査では、指導員の研修をしている市町村は、三割にとどまっている。

 待機児童は約一万人いるといわれ、学童保育へのニーズは増すばかり。同協議会は二月、課題解決のため、指導員の待遇の抜本的拡充や公的資格制度創設、養成機関の整備などを求める要望書を福島瑞穂・少子化対策担当相に提出した。

◆運営主体で保育料バラバラ
 学童保育は法的な運営基準がなく、学区や運営主体により差も大きい。全国学童保育連絡協議会の調査(二〇〇九年)では、公立公営が42・1%。それ以外は地域運営委員会(18・5%)、社会福祉協議会(10・9%)、父母会(7・7%)などが担っている。

 保育料平均月額は、公営だと月五千円未満だが、民営は一万円近い。施設の公的な保障や補助金が少ないと、月二万円を超える所も。父母会が運営する学童保育で会長を経験した名古屋市守山区の女性は「結局、現場では個々の指導員の能力に依存している。その存在意義が大きいからこそ、数万円の保育料でも払う。指導員は常に指導力の向上に努めてほしい」。

 岐阜県関市が運営する留守家庭児童教室の保育料は月三千円。女性指導員は「これだけ安いと、安易に利用する親がいるのも事実。学童での子どもの様子に無関心な親がいると、私たちの仕事は育児支援なのか、育児放棄支援なのかと悩むこともある」と打ち明ける。