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やってみました 記者たちの職業体験ルポ 社会保険労務士

2010/03/17

複雑な制度常に確認

 「資格を取るなら社会保険労務士。これからどんどん伸びていくよ」。十数年前、当時、勤務していた地の取材先で言われた言葉がずっと頭にこびりついていた。どんな仕事だろう。長年の疑問に答えを求め、一日入門を申し出た。
 緊張して豊川市下野川町の事務所を訪ねると、渡辺裕一郎さん(37)が笑顔で迎えてくれた。「先生」と呼ばれる職業だけに、貫禄(かんろく)たっぷりの姿を想像していたがちょっと安心。

 仕事は、総務や人事の担当者がいない中小企業と顧問契約を結び、事務手続きを代行する。就業規則などの書類作成、社会保険などの手続き代行、各種助成などのコンサルタント業務が主な仕事。

 まず給与計算をやらせてもらった。社員のタイムカードをもとに出勤日数などをチェック。遅刻や残業などは分単位で計算する。有給休暇や特別手当などを確認し、専用のソフトに打ち込んでいく。

 パソコン入力前の電卓での計算で早くもつまずいた。打ち間違い。クリアしてカードに目を戻すと、何日までやったのか分からなくなり、最初からやり直すはめに。会社によって「仕事がない場合は早退しても八時間働いたことにする」など個別の決まりがあり、余計にややこしい。

 「会社と社員の信頼にかかわるので間違いは許されません」。渡辺さんは計算結果をパート社員に確認してもらっているという。

 「助成金の相談業務も体験したい」と申し出ると、五十ページほどの冊子を渡された。相談者役の渡辺さんが「この助成金、うちはもらえるの」と尋ねてくる。慌てて冊子をめくるが、もちろんお手上げ。「制度の趣旨や適用要件、必要な書類などを説明できないといけない」と言われた。

 制度の内容はしょっちゅう変わり、新設される制度も多いため、ネットなどで常に確認が必要。助成対象になるか微妙なケースもあり、役所に問い合わせて後日、回答することもあるという。

 仕事の魅力を尋ねると、渡辺さんは「地味な仕事ですが、『助成金のおかげで社員の首を切らなくて済んだよ』なんて言われるとうれしいですね」と答えてくれた。(志方一雄)

 【メモ】1968年に社会保険労務士法が制定されて生まれた職業。社会保険労務士試験(合格率7~10%)に合格する必要がある。社労士事務所に勤務すれば給料は一般の事務職程度だが、独立すれば年収1000万円超も可能。

パソコン画面に向かって給与計算をする渡辺裕一郎さん=豊川市下野川町の事務所で
パソコン画面に向かって給与計算をする渡辺裕一郎さん=豊川市下野川町の事務所で