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やってみました 記者たちの職業体験ルポ 高度救助隊

2008/09/25

恐怖克服 時間と闘う

 火災や地震など災害時、市民の命を守る救助隊員。普段はどんな訓練をしているのか。豊橋市中消防署高度救助隊二担当の見習い隊員として、一日入隊させてもらった。
 同隊隊長の大井盛行消防司令補(48)から渡された救助隊のオレンジ服に身を包む。まずは同署裏の訓練棟で「応急ばしご訓練」に挑戦。火災で家の三階に取り残されたけが人を救出する訓練だ。記者は、けが人役の隊員にくくりつけた命綱のロープを持ち、ゆっくりと降ろす「三番員」を仰せ付かった。

 あっという間にはしごを登った二人の隊員から「降ろすぞ」の声。安全のため体に巻き付けているロープが一気に体に食い込み、思うように体が動かない。無事に降ろしはしたが隊員が三分以内に終える訓練に、五分以上かかった。大井隊長から「時間との勝負なんだから」と厳しいひと言。

 続いて、火災発生中の建物で生存者を捜す「検索訓練」へ。防火服と空気ボンベ計十五キロの装備をつけ、隊員の山田昭久さん(35)と中へ入った。空気マスクには煙や粉じんを想定した目隠しをつけるため、ほとんど視界はゼロだ。

 「誰かいませんかー!」。壁伝いに手探りの進行。中腰の体勢で足を動かし周囲を探る。隣を行く山田さんが何か指示をしているが、激しくなった自分の呼吸音で聞き取れない。ボンベの空気残量はみるみる減って、結局生存者を見つけられずに、あえなく退却となった。

 「火災現場では、これに加えて炎の熱と、命を失う恐怖心がつきまとう」と山田さん。訓練でパニックになりかけた自分には、とても想像できない。しかし、隊員はその中で人命救助という任務を背負う。「市民は救助隊員を選べない。だからこそ訓練を繰り返し、最高の隊員を目指すんです」。この強い使命感が、隊員たちの厳しい訓練を支えている。(井口健太)

 【メモ】豊橋市中消防署の高度救助隊員は24時間3交代勤務。勤務成績や身体能力、本人の希望をもとに市消防職員から選ばれ、県消防学校での研修などを受けて隊員となる。市消防職員の初任給は大卒で約18万円。

真っ暗な室内で生存者の検索訓練をする高度救助隊員(撮影のために照明をつけてあります)=豊橋市中消防署で
真っ暗な室内で生存者の検索訓練をする高度救助隊員(撮影のために照明をつけてあります)=豊橋市中消防署で