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【流儀あり】自己表現押しつけるな 神谷デザイン事務所・神谷利徳代表

2010/03/04

 「かっこ悪いな、おまえがな。図面じゃねぇぞ」。僕がスタッフを怒るのはデザインがダサイことじゃなく、お客さんを見る優しさが足りなかった時です。

 もちろん、世界のすてきなデザインの感覚をリアルに持っていることは大事なんですけど、焼き鳥屋(の案件)なのに「何でロンドンにあるようなシャンデリアがあるんだ。どう見ても、いろりにたき火を置いとくお店だろ」って。そういうのはお客さんを見ていないからなんです。

 僕の最大の強みは、建築デザインの勉強をしてこなかったことなんです。学生時代にバーテンダーのアルバイトをしていましてね。バーテンって単純にお酒を売る商売じゃないんですよ。間合いを売ったり、人生相談をしたり。そんな経験が生きているというか。

 僕らがつくるものは、一般の人が使うもの。だから“デザインばか”にならず、お客さん目線で物事を考える。僕のデザインを押しつけるのでなく、お客さんのビジネスや世の中に合わせて僕が7変化してきたつもりでいるんです。

 今の世の中、負のスパイラルに陥っているお店は基本的には業態転換してあげないと、ちょっとやっただけじゃ無理ですね。今の時代の人にグッとくるものにうまく転換できた時、正のスパイラルに転換できますよね。

 例えば(経営が)どんどん悪くなったある居酒屋に対しては、玄関からオール靴脱ぎの個室の居酒屋を提案したわけです。靴脱ぎってハードルが高くなるし、個室って席効率も悪くなるし。全く違う商売になる。「オペレーションが大変になる」「大人数に対応できない」。おいしいビジネスモデルが崩れるわけですよ。

 だけども、お客さんの居心地が良くなってリピート率が高まるとか、滞在時間が長くなって客単価が伸びるとか。メリットがまた表れてくるわけですね。

 そりゃあ(業態転換を受け入れるよう)クライアントの気持ちを切り替えるのはなかなか難しいですよ。「おまえ、しょせんデザイナーだろ」って言われる経営者もいます。でもそれはあなたの理屈であって顧客の理屈じゃないじゃん、っていうことに気付いていただくだけのこと。

 デザインは自己表現じゃない。喜んでいただいてなんぼ。お花を上手に生けられるから華道じゃないですよね。僕はそれをデザインでできないかって。デザイン道って。

 【かみや・としのり】 名城大農学部卒。大学在学中にバーテンダーのアルバイトを始め、家具職人との出会いをきっかけにデザインの道へ。87年、神谷デザイン事務所を設立。ガーデンレストラン徳川園(名古屋市東区)、名古屋テレビ塔(同市中区)のタワーレストランナゴヤなど、これまでに国内外で1000件以上の建築デザインを手掛けた。著書に「繁盛論」(アスキー新書)。愛知県西尾市出身。49歳。