2010/03/03
想像力働かせ文字に
デザイン書道家鈴木愛さん(32)=豊橋市老津町=の個展に行くと、ついつい作品に見入ってしまう。「流星」の文字はさんずいが左に勢いよく伸びて星が流れているようで、「愛」の文字は子を抱く母親の形に見える。面白いなと思いつつ、「デザイン書道家ってどんな職業なんだろう」と興味を持った。早速、自宅兼仕事場を訪ね、体験を申し入れた。
出迎えてくれた鈴木さんが見せてくれたのは一枚のパンフレット。酒瓶ラベルや飲食店看板などに丸っとした字や力強い字で商品名や店名が書かれている。見入っていると、「顧客の求める商品イメージや店の雰囲気を書で形にするのが仕事なんです」と鈴木さん。
納得したところで、記者もデザイン書にいざ挑戦。与えられた課題は、老舗「関谷醸造」(設楽町田口)が中部国際空港開港一周年を記念し、同港限定で四年前から販売している日本酒「飛(フェイ)」。同社担当者からは「まさに飛んでいるように書いてください」と依頼を受けたと聞き、固い頭をフル稼働させてイメージを膨らませる。思い切って「鳥」にイメージを絞り、「飛」の右側の点々を右に長く伸ばす。翼が広がっているように見えるように、と期待を込めた。
見ていた鈴木さんからは意外にも「良いんじゃない」の一言。真に受けて照れていると、実際にラベルになった鈴木さんの「飛」が目に入った。右のハネが擦れ、勢いがある。聞くと「飛行機が飛び立つところを表現しました」。反対に、右側の点々にはたっぷりと筆に墨を含ませ、にじみを出している。
「擦れで飛行機が風を切る様子を表したけれど、ぱさぱさした感じが残る。でも商品はお酒だから、にじみでシットリとおいしそうな潤い感も出さないと」
鈴木さんが案を完成させるまでに書いた枚数は百数十枚。「生みの苦しみは大きい。でも案を見せた時、お客さんの喜ぶ顔を見るとうれしくなるから」。鈴木さんの「飛」を見ながら、一文字に込められた思いの深さに心動かされた。(世古紘子)
【メモ】特別な資格は不要。鈴木さんの場合、商業書道の教室に通い始めて1年後にフリーで働き始めた。当時は月収数万円ほどだったが、3年目に収入が安定。月2回、カルチャーセンター講師も務める。鈴木さんが所属する日本デザイン書道作家協会(東京都中央区)には、2月現在で全国105人の作家が登録している。
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