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【暮らし】求ム!60歳以上 シニアを応援 派遣の『高齢社』

2008/09/24

 採用は六十歳以上、七十五歳未満というシニア専門の人材派遣会社がある。「高齢社」(東京都千代田区)。上田研二社長(70)が「定年退職者に働く場と生きがいを」と起業して九年、七十九歳を筆頭に現役シニアが汗を流している。 (飯田克志)

 上田さんは高校卒業後、愛媛県から上京して東京ガスに就職した。検針員を振り出しに営業畑を中心に勤務。五十代で出向し、経営難の関連会社二社を役員として立て直した。

 再建に取り組んでいた一九九〇年代。大手企業でリストラを進めるトップが名経営者と評されていた。「社員を消耗品扱いにしていておかしい。社員・協力企業を第一に考える自分の経営哲学を実践したい」。五十五歳のころ将来の起業を考えた。

 着目したのが高齢化社会で増えるシニア。「今のシニアは元気で技術もあり、使わない手はないと思った。それに、奥さんに“産業廃棄物”と言われ、邪魔者扱いされていたから」

 二〇〇〇年一月、高齢社を設立した。「広告費をかけられないので一度で覚えてもらえる名前にしたかった」

 業務はガス事業関連が中心。検針員やガス機器の点検など人手が足りない業界の状況をよく知っていたからだ。派遣登録者は現在、〇三年度の三・五倍の二百八十人。売上高も〇三年度の三千五百万円が、〇七年度には二億六千万円と急成長中だ。

 同社の特長を、上田さんは「多くの派遣会社と違い、働く人の都合を優先して、希望に合わせて勤務日を決めていること」を挙げ、派遣人員をやりくりしている。「人事以外の経営情報はすべてオープン」「経常利益の30%を社員に還元」なども実施。「社員・協力企業≧顧客≧株主」の“数式”で表す自らの経営哲学を実践する。

 働く人を最大限尊重するのは子ども時代の経験からだ。「父親が失業して、中学生のころ新聞配達などをやり、とても大変だった」。働く場があることが生きるには重要だと肌身にしみていた。

 登録するシニアの大半は、年金だけではまかなえない生活費を得るのが目的。上田さんは「社員に感謝されることが多い。まず、働く場がないし、働くことで奥さんにも大切にされるから」と笑う。人生を楽しむために必要なだけ働く、そんな働き方を支える。

 ただ、定年後の再就職はこれまで培ったキャリアがじゃまをするなど難しさもある。派遣先が決まった人には「就労時のお願い事項」というA4一枚の注意事項を渡す=表。上田さんが長年の経験からまとめたものだ。前職の立場や経験を前面に出し、職場で浮いてしまわないよう求めている。「再就職は新しい出会いがあり、本当は面白い。そのためには意識改革が必要」

 上田さん自身は四年前、パーキンソン病を患っていると判明したが、「仕事以外にいろいろな人と出会えて、病気になって良かった」と前向きだ。今も毎日会社に顔を出す。仕事熱心な姿から、友人たちに、泳いでいないと死んでしまう「回遊魚」と命名された。

 働くシニアを増やそうと企業間のネットワークづくりにも取り組む。「七十五歳まで体力・気力・知力に合わせ働くのが当たり前な社会づくりをしていきたい」