2010/02/03
『ダダダ』…ミシン駆使
「これ、作ってもらったんですよ」。訪ねてきた男性が頭の帽子を指さしてうれしそうに言った。新城市内の帽子店で作ってもらったという。「帽子職人って、珍しいでしょ」。新城市西新町の青木帽子店を訪ねた。
店主の青木正巳さん(72)はこの道五十七年の大ベテランだ。ハンチングやベレー、キャップに婦人物…。店にはずらりと帽子が並ぶ。「仕入れたものの方が多いですけどね」。七割が既製品で、三割が青木さんの手作りという。
「つば」や「天井」「腰」など帽子を構成する部材を型に基づいてはさみで切り、電動ミシンで縫い合わせて作る。
売り場とガラスの引き戸一枚を隔てた部屋の中に電動ミシンが置いてある。その上には作りかけの作業帽が見えた。「一番簡単な真っすぐに縫う作業をやってみますか」。そう言われ、ミシンの前に座った。
細長い生地の端を五ミリほど裏に折り込んだ部分を縫う作業。「二ミリ違うと気に入らないからほどいて縫い直す」。青木さんの言葉が頭をよぎる。生地に両手の指先をそえ、おそるおそる足元のペダルを踏み込んだ。
「ダダダダ」。勢い良く音を立てながら針が上下する。縫っているつもりだったが、青木さんの指摘で生地が前に進んでいないことが分かった。
操作を教えてもらって再びペダルを踏むと、今度は縫われながら生地が前に進む。縫い目が直線になるように、と思ううちにも縫い目はどんどん延びていく。
「上手に縫えるじゃないですか」と言われたのもつかの間。「縫い目は真っすぐになってるけど生地が伸びちゃってる」と言われる。「生地を張るということですか?」と聞くと「張りすぎなんです」。生地を見てもどこがどう伸びているか分からなかった。
「帽子の場合、直線縫いはほとんどないんです」と青木さん。丸い頭にかぶる物を縫い上げるのだからもっともだと納得する。真っすぐ縫うだけでも難しいのに、立体になるように縫うのは至難の業と思った。
青木さんがミシンを踏むと「ダダダ」「ダダダ」とリズムがいい。少し縫っては止め、生地の向きなどを微妙に変えながら縫い進める。ミシンの台から帽子が生まれてくるように見える。その姿に青木さんの経験が凝縮されているように感じた。(稲垣太郎)
【メモ】帽子職人に特に資格は必要ない。青木さんは中学校3年の時に帽子店を経営していた帽子職人の父親が亡くなり、そのまま店を継ぐことに。我流で仕事を覚えた。20年ほど前までは「平均的なサラリーマンと同じ程度」の収入だったが、その後は中国や東南アジア製の安い帽子に押され、今は「年金と合わせてどうにかやっていける程度」という。
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