中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【暮らし】標準報酬月額改ざん 国認定57件 氷山の一角 疑いあれば社保事務所へ

2008/09/18

 厚生年金の受給額を決める標準報酬月額が、受給者の知らない間に改ざんされる事例が次々と明らかになっている。総務省の年金記録確認第三者委員会は、これまでに五十七件の改ざんを認定。社会保険庁の職員が会社に改ざんを指導したケースもあり、問題は深刻だ。現在の仕組みでは、加入記録が一定期間抜け落ちている場合に比べ、記録の誤りに気付きにくく、申請に至らない埋もれた被害はまだ多くあるとみられている。 (佐橋大)

 仙台市の元会社員斎藤春美さん(50)は五年前、改ざんに気付いた。一九九二年から約三年、東京都内の会社で約三十万円の月給を受け取り、それに見合う保険料が給与から天引きされていた。

 しかし年金の記録上は、勤めて半年後に給与が激減していた。勤務先の会社がある時期、過去にさかのぼって斎藤さんの標準報酬月額を実際の三十万円から大幅に少ない八万円とするうその訂正届を出したのだ。

 当時、勤務先は経営難で、保険料を会社負担できない状態。給与を少なく見せ掛けることで、会社の保険料負担が減った。

 割を食ったのは斎藤さんだ。改ざんされた期間に天引きされた保険料のうち八十五万円は会社から国に納められず、八十五歳まで生きるとすれば年金約百四十二万円をもらい損ねる。

 社保庁によると、不正な資格喪失届けが出されるか、標準報酬月額など記録改ざんの疑いのあるケースは四月時点で約百六十件。しかし「表面化しているのは氷山の一角」との見方が野党の国会議員や社会保険労務士の間でもっぱらだ。

 被害が埋没しているとする根拠は、加入期間の記録に誤りがある場合に比べ、記録と実際のずれを知る機会が限られていること。

 年金記録の誤りを指摘してもらうため発送している「ねんきん特別便」。これには加入期間はあるが、標準報酬月額は書かれていない。標準報酬月額に誤りがあっても「特別便」から知ることはできない。

 標準報酬月額が改ざんされていても、二十五年以上保険料を納めていれば年金自体はもらえる。これまでの例では年金の減額は年数万円程度。「年金額はこんなもの」と思っていれば気付かない。

 現状で標準報酬月額入りの年金記録を入手するには社保事務所に足を運ぶか、現役世代なら社保庁のホームページ「年金個人情報提供サービス」に申し込むと約二週間後に結果が出る。

 一方、社保庁は、今後すべての厚生年金記録を調べ、標準報酬月額が不自然に下がっているなど改ざんの疑いがある記録を抽出して該当者に通知、確認を求める。来年以降、年金受給者に標準報酬月額の記録を通知し、来年度から加入者に送る「ねんきん定期便」にも標準報酬月額を載せる。

 これに対し民主党は「標準報酬月額は、ねんきん特別便に記載すべきだと言ってきたのにしなかった。対応が後手後手だ」(長妻昭衆院議員)と批判している。

 改ざんの疑いが分かったら、当時の給与明細や事業主の証言などを集める。それが無理でも、最寄りの社会保険事務所に相談することが重要。

 改ざんは経営難の会社に集中している。「経営の苦しかった会社に勤めていた人は要注意」(高木隆司・社会保険労務士)だ。