美術館の展示室には監視員が必ずいる。あのスタッフはどんな立場にあるのか、碧南市藤井達吉現代美術館で仲間入りしてみた。
「黒子なので、お客さまの鑑賞を妨げない服装で」と、来館前から注意をもらった。
同館の監視員は、開館から午後一時までか、午後一時から閉館までのどちらかを一班三人で受け持つ。
「いらっしゃいませ。ゆっくりご覧ください」と、入り口で客を迎えていた蜷川真弓さん(44)。何を見ているのか尋ねてみると「展示品の保護が仕事。視線の先はいつも作品です」。客が作品に近づきすぎて、かばんや帽子のつばで作品を擦らないように、つい触ってしまわないように気を配る。館全体の印象にもかかわるため、注意を促す時は「お気持ちは分かりますが、ご遠慮を」とあくまでやわらかく。
隣で一緒に立ってみた。客の動きに合わせながら、視界には入らないように細かに立ち位置を変える。「優雅に座っている」というイメージが一変した。「お客さまが多いと五時間立ちっぱなしですね」
客足が途絶えるといすに座るが、その時も学芸員が作った展示解説の資料や想定問答集など、手持ちのファイルに目を通す。
「お客さまの鑑賞を手助けできる存在になりたいですから」と、もう一人の監視員、宮嶋紗千さん(26)。
客にとっては監視員も“美術館の人”。抽象画を指して「これは何を描いているんですか」「作品や作者の読み方が分からない」。値段を尋ねられることもある。技法など専門的な質問は、速やかに学芸員に取り次ぐ。
来館者と最前線で接し、気の休まる暇もないハードな仕事だった。(坂口千夏)
【メモ】監視員に資格は特に必要ない。碧南市の場合、現在の登録数は11人。市臨時職員として、ローテーションの人数が不足した場合のみ募集をかける。時給は1000円余で年間の業務時間は1人当たり400時間程度。同館によると「神経質になりすぎず、人と接することが好きなタイプ。勉強熱心な人」が向いているという。
鑑賞を妨げないよう目立たない服装で作品の保護に目を配る監視員=碧南市藤井達吉現代美術館で