入社数年で離職したり、休職したりする若手社員の増加を受け、新たな人材育成制度を設けるなど対策を取る企業も出てきた。専門家は、社会構造の変化が若者の意識にも影響を与えていると指摘。「働いていれば自然に育っていく」という上司世代の意識を変えるよう呼び掛けている。 (田辺利奈)
「部下から相談を受けたら、優先して聞いたり、失敗を責めない雰囲気づくりをしたりと意識してきた点が評価されたようです」
損保ジャパン(東京都)東京自動車第一サービスセンター課長の林祥晃さん(47)は、社が本年度始めた「人材育成マイスター」に認定されている。
同社がこの制度を始めたのは、社員の価値観や仕事観が多様化し、若手を育成するのが難しくなってきたことが背景にある。会社が考える「理想の上司」を当てはめるのではなく、職場で支持される上司を選んで育成ノウハウを共有しようという試みだ。
課長級以上の管理職約1,900人を対象に、全社員約2万2千人に「自分を1番成長させてくれた上司」を選んでもらい、得票上位の約100人をマイスターとして選出した。投票では、具体的なエピソードも自由記述で書いてもらった。
林さんの部下の須賀川由香里さん(27)は「質問に対し、答えだけでなく、理由までしっかり言ってくれるので分かりやすい」。山本彩さん(24)は「言行一致しているのがいい」と話す。
マイスターに選ばれた上司に共通していた行動特性は、「安心して挑戦できる職場環境をつくっている」「部下の発言を引き出す力を持っている」「決断が速く、判断基準が明確」「部下に仕事を任せ、見守り我慢する」などがポイントだった。
同社はマイスターの下に、伸び盛りの新入社員や若手社員を重点的に配置。人材育成のノウハウを冊子でまとめるなどして共有している。
◆海外で修業も
三井物産(東京都)は本年度、5年目までの若手社員を対象に、日本人社員のいない海外拠点に派遣する研修制度を導入した。1人きりで日本語が通じない現地スタッフと仕事をさせることで、“修羅場”を経験させる狙いだ。
同社広報は「内向きな若者にもタフガイになってもらいたい。戻ってきた社員は、意見をしっかり言えるようになり、コミュニケーション能力が上がっている」と話す。今後も、毎年120人を3カ月から1年間派遣する計画だ。
<若手の離職>
厚生労働省の統計によると、2011年時点の入社3年目までの離職率は大卒で3割、短大卒で4割に達する。1998年以降、一貫して3割を超えている。労働政策研究・研修機構の07年の調査によると、35歳未満の離職の理由は「仕事上のストレスが大きい」が最も多く、「給与に不満」「人間関係がつらい」などが上位に並んだ。