会社にとって急成長こそが、最大の敵なんだ。理想は「年輪経営」。木の年輪みたいに、少しずつ確実に成長していく。会社の目的は永続することであって、売り上げを増やすのは、衰退しないための手段でしかない。
2005年に寒天ブームが起こって、消費者から「どこを探しても売っていない」って声がたくさん来た。良くないって分かっていたんだけど、「消費者に応えたい」って社員の意欲に負けて増産した。売り上げは前年比40%増になったけど、その後3年連続で減収減益になった。今は増収増益に戻ったけど、ブームの怖さ、「年輪経営」の大切さを再認識できたね。
会社に入ってから(06年まで)48年間、増収増益を継続できた。寒天っていう地味で市場もないところで生き抜こう、会社を永続させようって最初は必死だった。
「栄養がないから寒天はだめ」って言われていた。それが今は「栄養がないから健康にいい」って。運が良いってのもあったけど、寒天の用途を自力で追求してきた。これを「深耕」って呼んでいるんだけど。深く掘り起こせば、寒天でも奥行きは無限にある。固まらない寒天ができたら、それを化粧品や介護食に応用した。今は開発した商品数が1000種類を超えて、食品業界から外食、医薬、バイオ、美容へと市場を広げることができた。
マーケットリサーチはほとんどしない。出てくるのは、過去の数字だけでしょう。これがあれば社会がより良くなるってものを作って、自力で市場をつくり出してきたのが、強みだね。研究開発には、常に人員の1割以上を充てている。
あえて言うと、利益はウンチだって。バランスが取れて健康な体だったら、自然に出てくる。ウンチを出すのが生きる目的じゃないでしょう。利益はどう使うかが大事。設備投資や研究開発、福利厚生や環境整備に前向きに使って、会社が良くなればいい。
人件費はコストじゃない。(人件費を出すことは)会社の目的そのもの。みんなで頑張って働いて、利益でみんなが幸せになる。それが当たり前だったのに、そうじゃなくなった。「赤信号みんなで渡れば怖くない」って、リストラで利益を出すのが当たり前になっちゃった。毎年、少しずつ会社が良くなるって社員が感じたら、それが一番の成長でしょう。
聞き手・矢野修平
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【つかこし・ひろし】 高校を肺結核で中退し、回復後の57年、長野県内の木材会社に入社。翌58年、関連会社の寒天メーカー、伊那食品工業(同県伊那市)に「社長代行」として入社し、再建を任される。83年に社長就任、05年から現職。家庭で寒天菓子づくりが楽しめる「かんてんぱぱ」などの開発で市場開拓。同社によると、寒天の国内シェアは約8割を占める。10年12月期の売上高は171億円、従業員数は396人。同県駒ケ根市生まれ。73歳。