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【暮らし】いのちの響き/高次脳機能障害で1人暮らし(下)

2017/07/20

 ピピピピ-。高次脳機能障害者向けの支援をする名古屋市中区の「ワークハウスみかんやま」で、パソコンに向かっていた大藪尚史(なおひと)さん(45)の携帯電話のアラームが鳴った。午後4時20分。作業終了の時間だ。それを合図に片付けを始めると、しばらくしてヘルパーの早川和子さん(66)が迎えに来た。

 2016年2月から施設の近くにアパートを借りている大藪さんは、週3日をアパートで過ごし、残りは市内の実家に戻っている。1人暮らしを始めたのは「親はいつまでも元気ではないから」。漠然と「親亡き後は施設で暮らすしかない」と考えていたが、ヘルパーの助けを得れば1人暮らしができると、挑戦した。

 バイク事故の前までは1人暮らしをしていたが、けがをした後は母親が家事を担ってきた。どこまで一人でできるのかは、実際にやってみないと分からなかった。母親、みかんやまのスタッフ、ヘルパーを派遣する事業所、作業療法士らと相談した。実際に朝ご飯の準備や洗濯などを大藪さん自身がしてみて、支援に入る人たちがやることや手順を決め、今の生活ができあがった。

 みかんやまを出た大藪さんは、早川さんと施設から500メートルほど離れたスーパーへ向かった。つえを片手に歩いていると、午後4時40分にも携帯のアラームが鳴った。「今日買う必要があるものがないか、思い出すためです」と大藪さん。

 買い物かごをカートに載せて店内をひととおり見て回る。調理が難しそうな食材に手を出すと「それは駄目ですよ」と、早川さんが止める。レトルトのハンバーグや総菜コーナーのサラダなどをかごに入れ、支払いも介助を受けながら大藪さんがした。

 自宅に戻ると、早川さんが冷蔵庫に張ったホワイトボードを確認。3人のヘルパーが交代で介助しているため「冷凍ご飯の残り」「ダブり食材」などが書き出してある。ヘルパーは炊飯などの調理をし、大藪さんが1人でシャワーを浴びている間、洗濯物を畳んだりしながら見守る。

 必要のないものを買い、お金が足りなくなったことがあるため、ヘルパーがレシートをノートに貼るようにしたところ、無駄遣いに気を付けるようになった。洗濯をしたまま干し忘れたり、必要のない契約をしてしまったりしたこともあるが、みかんやまのスタッフの助けを借りて対処することができた。

 高次脳機能障害がある人は、親の援助を受けて暮らす人が多い。名古屋市総合リハビリテーションセンター(瑞穂区)で高次脳機能障害支援部長を務める深川和利医師は「親が高齢になって援助をする能力が低下しても、本人は障害のためそれに気づけないまま実家暮らしを続ける人もいる」と言う。両親が手助けできなくなったり、亡くなったりした後、どう生活を維持するかは大きな課題だ。しかし、深川さんは「どんな支援をだれにどう頼んだらよいのか。それが分からない人がほとんど」と話す。

 大藪さんが1人暮らしを始めて1年半がたった。ヘルパーらは「当初よりも自分でできることが増えた」と評価するが、本人は「自信が付いたかと言われればまだ中途半端」と厳しい。それでも、やっていける手応えはつかんでいる。「将来、1人暮らしになっても、ヘルパーの助けがあれば暮らしていけると思う」

 (稲田雅文)

ヘルパーに付き添われて買い物をし、自宅へ向かう大藪尚史さん(右)=名古屋市中区で
ヘルパーに付き添われて買い物をし、自宅へ向かう大藪尚史さん(右)=名古屋市中区で

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