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【医療】患者の思い尊重し世話「またナゴヤドームに行こうね」

2017/07/04

 優しく声をかけると、ベッドで寝たきりの筋萎縮性側索硬化症(ALS)の猪原雄二さんは、笑みを浮かべ、まばたきをして答えた。壁に掛かるのは、プロ野球中日ドラゴンズのひいき選手のユニホーム。体は動かなくても、話せなくても、目と耳で応援できる。

 名古屋市北区の「難病シェアハウスななみの家」では、主にALSの六人が共同生活。訪問看護師やヘルパー、理学療法士らスタッフが交代で24時間、世話している。

 訪問看護をしていたALSの人が「このまま手も動かなくなったら1人で暮らせない。施設に入るお金もないから、ここで死ぬしかない」と嘆くのを聞き、シェアハウスを考えた。

 病院勤務の看護師や看護学校の教員などを経て、8年前に株式会社「ななみ」(名古屋市熱田区)を立ち上げた。「なんでも 仲良く みんなで」の頭文字で「ななみ」。訪問看護、訪問介護のステーションが主事業だが、困った人がいると、採算を度外視しても力になりたい性分だ。キャンナス(全国訪問ボランティアナースの会)名古屋代表、日本ALS協会愛知県支部の事務局など、社会活動の肩書は十指を超える。

 高校までを過ごした宮崎県都城市の市営住宅の自宅では、近所の子どもたちと食事や寝泊まりを共にしていた。母・通子さん(85)が貧しい人の支援に熱心だったからだ。そんな母譲りのボランティア精神に磨きをかけたのは、愛知県東海市の在宅診療医だった故・伊藤光保さんとの出会い。2015年にがんで亡くなる直前まで訪問診療を続け、高齢者や障害者を支援する仕組みづくりに尽力した人だった。常に患者の思いを尊重する姿勢に共感した。

 病院の看護師だったころ、余命わずかな高齢女性の入院患者が「梅干し入りのおにぎりを食べたい」と望んでいた。医師は「塩分が多いからダメ」と言ったが、こっそり差し入れたら、一口食べて「ああ、おいしい。もう死んでもいい」と感謝された。

 「死を前に、食べたいものを我慢することに意味があるのか。看護って何だろう」と自問し、伊藤さんの影響で選んだ道が訪問看護だった。

 看護師として働き続けて40年。育てた娘3人も看護師となり、母の仕事を手伝っている。 (編集委員・安藤明夫)

ALSの患者に声をかける冨士恵美子さん=名古屋市北区で
ALSの患者に声をかける冨士恵美子さん=名古屋市北区で

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