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【地域経済】中小 障害者と歩む 積極採用取り組む

2018/10/04

サポート 根気強く 助け合いで職場一体

 この夏明らかになった中央省庁での障害者雇用の水増し問題は、障害者の雇用を巡る現実を浮き彫りにした。厚生労働省によると、中部地方で障害者の法定雇用率(2・2%)を達成している企業は5~6割。働く場を広げるには何が必要なのか、積極的に取り組む愛知県内の中小企業を訪ねた。(中村玲菜)

 ●教育は長い目で

 リサイクル業の中西(豊明市)は、従業員63人のうち30人が知的などの障害者。ベルトコンベヤーの前でガラス瓶などの資源ごみを仕分ける。機械化すれば9人でする仕事が2人で済むが、再利用するビール瓶と単なる茶色の瓶を分けるといった、細かな作業には人の目の方が正確だ。知的障害者は抽象的な概念を捉えるのが苦手な人が多い一方、「真面目にこつこつ」が求められる作業には向いている。集中を切らさず反復作業に当たってもらえると、30年ほど前から知的障害者を採用してきた。笠原尚志社長(65)は「障害が重度の人もこの仕事では戦力になる」と話す。

 機械製造の信濃工業(あま市)では3人の知的障害者が働く。江尻富吉社長(71)によると、戦力になる目安は5年。健常者より教育に時間がかかるが、2~3年は障害の程度により国や県の助成金を活用できる。「教育は長い目でやっている」と江尻社長。一人前になれば障害の有無で分け隔てはなく、知的障害がある勤続15年の霜田真俊(まさとし)さん(33)は健常者の後輩社員に手本を見せながら部品を磨く作業を指導する。

 自動車用樹脂部品を製造する鳥越樹脂工業(一宮市)は昨年4月、男性の知的障害者を初めて新卒採用した。勤続10年の石場美佐子さん(63)が専任の支援役として寄り添う。

 製品の梱包(こんぽう)を手助けする石場さんは「サポートは根気がいる」と明かす。金曜には完璧にできた作業が、月曜になると手順が分からなくなることも。鳥越豊社長(62)は「人件費だけでみれば現状では『損』だが、彼を中心に助け合う雰囲気ができた」と話し、初めての知的障害者雇用に職場一体で取り組んでいる。

 ●働きがい大切に

 自動車のエンジン部品を製造する荒川工業(日進市)は2年前から精神障害者の採用を始めた。現在は2人が働く。身体以外の障害者採用は難しいと考えていたが、担当者が企業向けセミナーなどに足を運び「適切な仕事を割り当てれば戦力になる」と判断。具体策を愛知障害者職業センターに相談した。

 センターに勧められたのは工場内で排出される鋳物の切りくずの回収作業。精神障害者は「早く、正確に」といった精神的重圧や、競争のストレスが少ない環境に適性があるためだ。最初に採用した30代の男性の働きぶりが良かったため、翌年にもう一人、同じく30代の男性を採用した。総務部の奥田悦子さん(48)は「センターのアドバイスに助けられた」と振り返る。

 フランチャイズで衣料品店を運営するプロジェクトファイブ(岡崎市)は、店舗ごとに一人を目標に採用。大半が精神障害者で、現在八人が働く。

 対人関係のストレスを減らすため、仕事は倉庫の在庫管理、商品補充など客との接点がない売り場以外での業務が中心。店員が接客の合間に取り組んでいた仕事をまとめ、割り当てた。仕事が単調だと「自分は役立っているだろうか」と不安の原因になる。作業の仕上がりや工夫をほめたり、意欲次第で店頭業務も任せたりしている。「採用はゴールではない」と担当者。長く働いてもらおうと、働きがいのある職場づくりを心がけている。

    ◇

◆企業は支援機関活用を

 障害者就労・雇用を専門に支援する愛知障害者職業センター(名古屋市)には、年間で障害者約1700人、企業約800社から相談が寄せられる。主任カウンセラーの小野寺十二(みつぐ)さん(40)は、「障害者は障害を理解してもらえるかや、適切な配慮を得られるかを気にかける」と話す。障害者雇用に取り組む企業が増える一方、障害者が求人の内容を取捨選択する傾向も強まっているという。同センターでは、知識不足に悩む企業向けに雇用の前後に職場適応援助者(ジョブコーチ)を派遣するなどの支援をしており、「ハローワークと併せて活用してほしい」と呼び掛けている。

(メモ)

 障害者の法定雇用率 企業が義務づけられた、全従業員に占める障害者の割合。今年4月に見直しがあり、2・0%から2・2%に引き上げられた。対象となる企業も従業員数50人以上から、45・5人以上に拡大した。雇用率が守れない場合、従業員100人を超える企業は、不足1人あたり月額4万~5万円の「納付金」を、独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」に支払わねばならない。