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【暮らし】なぜ若者はすぐ辞める? 転職しやすい売り手市場が背景

2018/06/25

 夢と希望を抱いて今春、入社した若者たち。しかしすでに退職した人がいる。若者の就職支援会社によると、数年で辞めても短期離職といわれるが、最近はわずか数カ月という極めて短期の離職者が増える傾向にあるという。なぜ若者はすぐ会社を辞めるのか。理由を聞いてみた。

 ◇ ◇ ◇

 「ITのエンジニアとして働きたいので辞めます」

 都内のウェブコンサルタント会社で働いていた1年目の男性(22)は4月末、40代の上司に辞職を申し出た。すると上司の表情はこわばり、「なんで今まで相談しなかったんだ。突然辞めるなんて」。

 男性は新卒で今春、入社した。新しいことに次々挑戦する社風が合っていると感じ、入社を決めた。

 男性の業務は、顧客がホームページでの受注を増やせるように、アドバイスしたり、システムを改善したりする。この会社でエンジニアとして成長したいと考えていた男性だが、会社は4月以降にエンジニア業務を外部委託することに。男性は会社の方針変更に「専門技術を磨く機会がなくなった」と退職を決意した。

 男性は就職活動を始め、既に内定も出た。「もともと1つの企業で働き続けるつもりはなかった」と、未練はないという。

◆一因に「ブラック」

 労働条件が劣悪な、いわゆるブラック企業のため辞める若者もいる。

 都内の人材紹介会社に今春、新卒で入った男性(23)は体を壊し、5月末に退職した。業務は転職者の受け入れ先企業の開拓。午前9時から午後7時ごろまで企業の人事担当者に電話で営業をかけ続ける。その後はアポイントが取れた企業の情報収集や、企業訪問の報告書などをパソコンに打ち込む作業もした。

 午後10時すぎの退社は当たり前。終電で帰宅し、報告書を自宅で書いたこともある。男性は「『午後9時には帰宅できる』と聞いていたが、実態は違った」と悔やむ。3時間睡眠の日々に体が悲鳴を上げ、退社を余儀なくされた。「寝る時間以外は仕事の状態。修業と思ったが、無理だった」

 厚生労働省によると、大学の新卒者は1年以内に12・3%、3年以内に32・2%が退職する(2014年3月卒業者)。

 新卒以外の若者の就職を支援する会社「UZUZ(ウズウズ)」(東京都新宿区)によると、入社した年の4月から五月中旬にかけて離職した若者の登録者数は16年は151人だったが、今年は371人と倍以上に増えている。

 川畑翔太郎専務(31)によると、5年以上前の退職理由は「残業が多い」「ノルマが重い」など労働時間や成果に関する理由が多かった。しかしここ数年は「配属先が希望と違う」「東京から地方に転勤を言い渡された」など希望とのズレが目立つという。人手不足による売り手市場で、短期離職しても次の就職先が見つかりやすい。親も「嫌なら辞めて良い」と容認する傾向という。

 一方で、川畑さんは短期離職のデメリットも考えてと呼び掛ける。「業務を経験したとはいえ、数カ月では表層的でしかなく、他業務への応用が利かない。また社会人としての適応力が育たない恐れもある」

 (寺本康弘)