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【暮らし】<ともに> 知的障害者 7割の会社(中)

2018/06/14

「6S委員」。粉が飛び散りにくく、人体や環境への負荷が少ないチョークを製造する日本理化学工業(川崎市)の工場には、製造現場で働く社員から模範となるリーダーを任命する制度がある。6Sとは、整理、整頓、清掃、清潔、セーフティー(安全)、しつけ(整理や整頓などの習慣付け)だ。

 安全を除く5つを「5S」として掲げる工場が多いが、同社ではけが防止を重視して安全を加えた。発案したのは、原料を混ぜる工程を15年間、担ってきた竹内章浩さん(33)。知的障害があるが、会議で案を説明し賛同を得た。

 同社は4月末現在、全社員86人のうちの7割超に知的障害がある。チョークの国内トップシェアを誇るが、製造ラインを担うのは全員が障害のある社員。5Sなどの目標は、健常者だけの工場では単なる努力目標になりがちだが、同社の工場ではチョークの品質を保ち、障害者を含む社員の成長を促すため6Sの順守を心がける。この制度もその表れだ。

 仕事を通し、成長が見られる人が委員に任命される。6S活動ができるか、できないかではなく、委員になることでより成長が見込まれる人を積極的に選ぶ。委員になると役職手当が付く一方、会議や勉強会への参加などが義務づけられるため、本人に意欲を確認してから任命している。年に1度、見直しもある。

 現在、川崎工場の委員は19人。この中から副班長2人、班長3人、リーダー1人が選ばれる。委員たちは、ラインに入ったばかりの社員が分からないことがあれば教え、解決できないことは健常者の社員に相談する。班長やリーダーはより広く周囲を見て声を掛ける。この仕組みによって、障害のある社員にも責任感や向上心が生まれている。

 同社が知的障害者の採用を始めたのは1960年。近隣の特別支援学校の教員から「働く経験をさせたい」と頼み込まれ、現会長の大山泰弘さん(85)が社長のときに始めた。以後、地域の学校から毎年数人を採用している。

 希望者は入社前に2週間の実習を計3回受ける。折り紙を折ったり、はさみを使ったりする作業から手先の器用さや集中力、作業の好みなどを見て、製造ラインに入るかどうか、どの工程を担当させるかなどを見極める。

 保護者らとも面接し、本人に働きたい気持ちがあるかどうかも確認する。本人とは、毎日元気に出勤する(1人で通勤し、健康管理ができる)▽自分のことは自分でする▽あいさつと意思表示をきちんとする-などを約束する。年度初めには、1年の目標を1人3つ書き、食堂の壁に張り出す。毎日「目標ノート」に自己評価を書き込む。目標達成者は表彰する。

 2008年に社長に就任した泰弘さんの長男、隆久さん(49)は、社長になった当初は、少子化や授業の情報技術(IT)化などの影響で先細る業界を不安に思い、健常者の社員を増やした方がいいのではとも思ったという。だが、一緒に働くうちに、知的障害者には集中力を持続できたり、手先が極めて器用だったりと、高い能力を持つ人が少なくないと実感した。

 「障害の有無に関係なく、働く喜びを感じながら、定年まで働き続けてもらいたい」と話す。

食堂の壁に張られた社員の目標。できているかどうか、毎日ノートに記し、自己評価する=川崎市で
食堂の壁に張られた社員の目標。できているかどうか、毎日ノートに記し、自己評価する=川崎市で