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【社会】過労死110番 絶えぬ叫び 設置30年

2018/06/10

若者に「心の病」広がる

 バブル景気真っただ中の1988年6月、父の日にちなんで始まった「過労死110番」が、30周年を迎えた。寄せられた相談は累計で約1万2000件。会社組織に閉ざされていた被害を掘り起こし、遺族らを支えて労災認定を勝ち取り、救済の道を広げてきた。だがいまもなお、過労を巡る悲痛な声は後を絶たない。

 電話相談を運営する過労死弁護団全国連絡会議によると、1万2000件のうち、労災補償は53%の約6300件。当事者の死亡事案は約3800件あり、全体の32%を占める。

 過労やストレスで持病の気管支ぜんそくが悪化し、死亡したと認定した1999年の名古屋地裁判決など、「110番」への相談をきっかけに労災認定を勝ち取った事例も多い。

 開始当初はくも膜下出血など、40~50代の脳・心臓疾患の相談がほとんどだった。最近は「長時間労働による精神疾患で休職したが、復職後に自殺した」「深夜まで働く息子から『死にたい』とメールが届いた」など、20~40代を当事者とするケースが増加。長時間労働やパワハラ、セクハラなどによる「心の病」が若者たちに広がっているという。

 厚生労働省によると、精神障害の労災認定件数は、2010年度に脳・心臓疾患を初めて上回った。16年度の労災申請は1586件。これに対し、認定は498件(認定率31%)で、うち自殺(未遂を含む)は84件あった。

 同連絡会議の川人(かわひと)博弁護士は「かつては一家の大黒柱を亡くした妻からの相談がほとんどだったが、娘や息子を亡くした親からの相談が増えている」と語る。近年は「名ばかり管理職」のように、管理監督者の身分にして労働時間規制を取り払おうとする職場が多く、川人弁護士は「過労死防止と補償のため、あらためて気を引き締めたい」と話した。

 今年の全国一斉電話相談は今月16日。東京=フリーダイヤル(0120)666591、午前10時~午後3時=のほか、愛知や岐阜、静岡など30都道府県で実施する。各地の相談窓口は「過労死110番」ホームページへ。

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◆「過労死110番」相談例
(2015~17年。右は当事者の年齢・性別)

不動産会社の入社3年目で午前0時半ごろまで勤務が続き、精神疾患で休職。復職後に自殺した\20代女性

友人は「午後7時以降は残業するな」と指示され、電気を消してパソコンの明かりで仕事をしている\40代男性

広告会社の息子が深夜まで働いている。「死にたい」とメールが届き、連絡がつかなくなっているので心配だ\20代男性

残業時間が多く、通勤途中に脳梗塞で倒れた。社長から「裁判を起こさない」との念書を書かされた\50代男性

子育て中の娘は月80時間を超える残業が続き、うつ症状がある。勤務先に退職を認めてもらえず、心配している\30代女性