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【社会】がん復職 働き方支援 3割超 診断で退職余儀なく

2018/02/18

おしゃれに負担軽減/医療施設と提携

 人手不足が深刻となり、企業にとっては病気と闘う従業員も働き続けられる環境づくりは急務だ。特に、生存率が上がり「長く付き合う病気」となったがんの場合、診断された3人に1人が働く世代で、治療と仕事の両立は切実な問題となっている。企業によるがん経験者への理解と取り組みは道半ばだが、「働き方」で支援する動きが広がり始めている。 (須藤恵里)

 ◇ ◇ ◇

 *大切な戦力

 乳がんの手術をした体への負担が小さいブラジャーや、抗がん剤で髪の毛が抜けても頭の形がきれいに出るよう工夫した帽子-。カタログ通販の千趣会は、乳がん経験者を支援する商品開発に力を入れる。

 ブラジャーのデザインを担うデザイナーの儘田(ままだ)由紀さん(57)は、中学生の時に胸の良性腫瘍を取り除く手術を経験。「左右差のある胸はずっとコンプレックスだった。おしゃれで機能的なブラジャーを作りたかった」と思いを込める。

 千趣会は先月、社員向けにがんと診断された場合の不安に応える情報発信も始めた。中心となって手掛ける広報部の矢治美由紀さん(38)は「がんは治療をしながら働き続けられる時代だが、理解は乏しい」とし、「病気と闘う社員も大切な戦力。会社も変わっていかなければ」と話す。


 *退職社員ゼロ


 「がんに負けるな」「最小限の心配と最大限の希望を持って働き続けてもらいたい」。昨年7月、伊藤忠商事の全社員約4300人に、岡藤正広社長(68)からメッセージが届いた。

 伊藤忠は働きながらがんの治療に専念できる支援策を強化。国立がん研究センターと提携した検診・治療体制をつくった。事業部ごとに両立支援コーディネーターを置き、所属長や産業医とともに働き方のプランを作成する仕組みも整えた。人事・総務部の西川大輔企画統轄室長(47)は「病気などの制約を抱えながら働き続ける環境づくりは、見えない資産になる」と話す。同社でがんを理由に退社した社員はいないという。


 *痛みを共有


 だが、厚生労働省によると、がんと診断された人の中で仕事を辞めた人は3割超に上るのが実情だ。

 「企業が、がん治療による体力低下や痛みを理解し、時短勤務など働き方に配慮できれば復職率は上がる」。先月29日に東京都内で開かれた「がんと就労」の勉強会で、企業の産業医を務める順天堂大の遠藤源樹准教授(40)は強調した。遠藤氏は、人員に余裕のない中小企業では休んでから3カ月でフルタイムでの復帰を求められ、退職を余儀なくされるケースが多いと指摘する。

 勉強会は、治療をしながら働きやすい環境づくりを目指す民間プロジェクト「がんアライ部」が主催。企業の先進的な取り組みなどを紹介する。代表発起人であるライフネット生命保険の岩瀬大輔社長(41)は「制度に加え、風土づくりも重要。好事例を共有することで企業が変わり、社会が変わる。目指すのはそこだ」と話す。

【がんと就労の問題】
 日本では、年間約100万人が新たにがんと診断され、その約3割が働く世代に当たる20~64歳とされる。治療技術の進歩で治療後も職場復帰できるケースが増えていることを受け、政府は2016年12月、がん対策基本法を改正。事業主に対し、がん患者の雇用継続に配慮することを努力義務として掲げた。