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【社会】農園 トイレ新設へネット資金集め

2017/11/17

障害者の就農 悩み刈り取れ 名張のNPO

 担い手不足の農業を障害者の就労の場とする動きが全国的に広まる中、農園で働く障害者の排せつ環境の改善が大きな課題になっている。三重県名張市のNPO法人あぐりの杜(もり)は新しくトイレを設置するため、インターネットで資金を募るクラウドファンディングを活用。障害者自らが社会に呼び掛けて現状を変えられれば、生きる力を育む自信になるという期待もある。(帯田祥尚)

 ◇ ◇ ◇

 名張市北部の山あいの南古山という集落。棚田の跡地にビニールハウス五棟があり、知的傷害、身体障害、精神疾患のある19~62歳の男女14人がコマツナやミズナ、リーフレタスの水耕栽培をしている。農業と障害者福祉をつなぐ「農福連携」の先進事例として注目されている。

 障害のため便意をもよおしてから排せつまでの時間が短かったり、服薬の影響で頻度が高まったりする人も多い。農園にはもともと男女共用のくみ取り式の大便器が1つあったが、内部は1メートル四方と狭く、しゃがむのが困難な人には使いにくい和式だった。

 「そもそも農地にはトイレがない所が多い。農業では生産効率に直結しないトイレの問題は手付かずのままか、後回しにされてきた」とあぐりの杜事務局長の井上早織さん(49)。国が農福連携の成功例に挙げる愛媛県砥部(とべ)町の事業所でさえ、トイレは近くのコンビニで借りているという。

 あぐりの杜では商業施設で不要になった小便器を譲り受けたり、工事現場で使われていた洋式便器を借りたりして仮設トイレを3つに拡充。女子用には和式便器に洋式便座を取り付け、ドアの周りに囲いを設けるなど工夫してきた。だが、夏は汚水タンクを密閉する弁が壊れて蚊が大量発生し、冬は水が凍って流せなくなるトラブルが頻発。そのたびに不便を強いられた。

 脳性まひによる知的障害と四肢にまひがある森本爽加さん(23)は「ドアや壁に頭をぶつけるから、もっと広かったらいいのに」。男女別で十分な広さがあり、換気扇で風通しをよくしたトイレなら、蚊や臭いに悩まされなくてすむ。森本さんはそんな「理想」を思いながら、ネットなどの写真を通して現状を伝える。

 障害者の就農の実情に詳しいJA共済総合研究所の浜田健司主任研究員は「コンビニや公民館など近隣の施設に頼れない場合は官民の経済的な支援が必要。障害者だけではなく、他分野から農業への新規参入を促すためには、トイレをはじめ労働環境の整備が欠かせない」と話す。

 トイレの建設費は200万円。仲介サイト「Readyfor(レディーフォー)」で12月26日午後11時まで、5000~10万円の小口融資を集める。寄付者には手紙と農園で収穫した野菜や手芸品が贈られる。森本さんは「本当に困っているので、心を込めて感謝の気持ちを伝えたい」と話す。「Readyfor あぐりの杜」で検索。問い合わせは、あぐりの杜=電0595(44)6789=へ。

【農福連携と国の支援策】 農林水産省によると、農業者の平均年齢は66・8歳(2015年)。過去20年間で7・7歳上がり、就業人口は210万人に半減した。障害者の農林漁業への就職件数は2825件(15年度)と、5年間で1・79倍に増え、障害者雇用が進む傾向にある。国は13年から、障害者が働くための施設整備に半額を補助。これまで145件の利用があったが、ハウスや資材置き場などの生産設備の拡充が大半で、トイレが含まれる整備は1割程度にとどまる。

農園の一角にある女性用トイレ。障害のある人たちには使いにくい
農園の一角にある女性用トイレ。障害のある人たちには使いにくい
収穫したレタスを根切りする障害者たち=三重県名張市南古山で
収穫したレタスを根切りする障害者たち=三重県名張市南古山で