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【暮らし】<放り出された障害者 大量解雇の現場から>(3) 狙われたA型

2017/11/17

 本業のもうけを増やす努力をせずに、国の給付金や助成金で会社を運営する-。名古屋市北区の就労継続支援A型事業所「パドマ」の利用者だった精神障害がある男性(62)にとって、それは以前、市内の別のA型で見たのと同じだった。

 男性は元々、名古屋市内の会社で働いていたが、上司の言動からうつ病になり、53歳で退職。就労支援施設などを経てそのA型に就職した。

 社長に「マッサージの事業をする」と言われ、1日中、机の上にタオルをしいて指圧の練習をした。しかし、にわか事業は計画倒れ。梅干し、らっきょう作りも始めたが「塩辛くて食べられなかった」。

 社長はコンサルタント業も始め、経営者向けの雑誌に広告を載せた。そこには、こんな文句があった。「国の給付金等で(中略)潰(つぶ)れることのない経営」「年間3000万円以上の利益も狙えます」。A型を「もうかる事業」と宣伝していた。

 男性が違和感を募らせたのとは裏腹に、この広告への反応は上々。事業拡大を図る異業種の会社からの問い合わせが相次いだ。来客があると社長は、システムエンジニアや事務経験のある男性を「バリバリやっている障害者」と紹介した。

 こうした手法に疑問を覚え、男性は退社。行政に社長の手法を説明し「やめさせてほしい」と訴えたが、「参考にしたい」と言われただけだった。

 厚生労働省によると、A型は2013年4月に全国約1600カ所だったのが、今年4月には約3600カ所と倍以上に増えた。この背景には、A型を障害者が働く場というよりも、もうけ話と捉えて参入する事業者が多かったという指摘もある。障害者向け作業所の組織「きょうされん」愛知支部事務局長大野健志さん(46)は「利用者は仕事をするのではなく、折り紙をして勤務時間が終わるのを待つだけのところもあった」と話す。

 厚労省が3月、A型への指導強化を地方自治体に通知したのは、こうした実態を受けての措置だった。運営に問題があった事業者は、自治体を通じて「経営改善計画書」を提出し、立て直しを急いでいる。

 ただ、改善する意欲に乏しい経営者もいる。10月末で閉鎖した東海地方のA型で管理者をしていた男性は「運営会社の社長が、計画書の『どのような改善をするか』の欄を埋められなかった」と、閉鎖した理由を説明する。

 男性によると、運営会社は元々、福祉とは無関係のリサイクル業だった。社長がA型を営む同業の知人に「助成金があり、もうかる」と勧められ、3年前に参入した。運営会社からの下請け仕事と内職をしていたが、利用者に最低賃金を払うと赤字。男性が社長に迫っても、改善されなかった。

 それでも続けられたのは「給付金などがあったから。それらがあって初めて成り立っていた」。男性は利用者たちの行き先探しに奔走している。

 「悪(あ)しきA型」が広がった状況での厳格化を、冒頭の男性は心配する。

 「こうなってからA型の首を絞めても、解雇される利用者がつらいだけ。販路開拓のノウハウがない経営者は、給付金に頼らずに給料を払う方法を持っていないのだから」

 (出口有紀)