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【暮らし】<放り出された障害者 大量解雇の現場から>(1)給付金の規制、引き金に

2017/11/15

 名古屋市や岡山県倉敷市などで、一般企業への就労が難しい障害者が働く「就労継続支援A型事業所」が経営破綻し、働いていた障害者が一斉に解雇される事案が相次いでいる。取材からは、「うまみのあるビジネス」として参入し、経営努力を欠く事業者が一部にいたことがみえてきた。しかし、事業所の閉鎖で一番困ったのは破綻した事業者ではなく、行き場をなくした障害者だ。一連の問題は、どんな課題を浮かび上がらせたのか-。

 「A型が閉鎖され、大勢の障害者が解雇されそうだ」。初めてそう聞いたのは8月7日。名古屋市北区にある、そのA型「パドマ」に向かう。ただし、その時点では「A型って何?」というのが本当のところ。

 障害者向け作業所の組織「きょうされん」愛知支部事務局長の大野健志さん(46)とパドマの近くで待ち合わせた。大野さんに聞くと、A型とは障害者がパン作りなどの仕事をして給料をもらうところ。パドマは同区の民間企業「障がい者支援機構」の運営で、パドマの他、全国五カ所でA型を運営しているという。「6カ所で計160人の障害者が職を失う。早急に行き先をなんとかしないと」。大野さんは固く唇を結ぶ。

 後で調べたことも合わせると、A型は2006年の障害者自立支援法(現障害者総合支援法)でできた制度。事業者と雇用契約を結んだ障害者(利用者)は、事業者が他の企業などから受注した仕事をし、最低賃金(最賃)以上の給料を得る。給料は、1人月平均6万円ほどになるという。B型という事業所もあり、障害がより重い人が通う。雇用契約は結ばず、工賃は平均月1万5000円ほどという。

 A型には利用者1人当たり1日約5000円の給付金があることも、大野さんは教えてくれた。ここで疑問が湧いた。事業収益だけでなく国の支援もあるのに、なぜ会社が傾くのか。

 パドマの実態はまだよく分かっていなかったが、「A型の中には、事業で収益をだす努力をせず給付金頼みのところもあった。それが今春、国が給付金を利用者の給料に充てないよう規制を強めたため、収益がでていない事業所は利用者に給料を払えなくなったんです」と大野さんは言う。1人約5000円の給付金をもらい、時給を1000円とした場合、勤務時間を4時間にすれば、1000円が事業者の手元に残る。利用者が10人いれば1万円…。そういうごまかしができなくなったということか。

 現場に着いた。商店街の表通りを少し入ったところ。長屋のような建物だ。シャッターに「しばらく休みます」との張り紙がある。中では、ハローワーク名古屋中のスタッフが面談会を開いていた。鈴木斉(ひとし)次長は「県内ではかつてない規模の障害者の一斉解雇」と深刻な表情だ。

 翌日、再び訪問すると男性社長がいた。疲れた表情で「今は利用者の対応で忙しいので、後日お話しします」と話した。柔和な物腰で、悪質な事業者にはみえなかった。しかし、「後日」はなかった。約束した日時、社長は現れず、その後も連絡はついていない。

 愛知県や名古屋市が現在把握している範囲では、障がい者支援機構が愛知県内で運営していたパドマと清須市の「スーリヤ」のA型2カ所で行き先のめどがついているのは元利用者計69人のうち41人。残る28人は突然、職を失ったまま。6~8月の給料も未払いだ。

 パドマで利用者たちに仕事を教えていた元従業員女性(69)は言う。「社長は言い訳をするばかりで、国は仕組みを作って、お金を出しただけ。切り捨てられるのは障害者。今の状況がもどかしいし、悔しい」

 あのとき、もっと強くくぎをさしていたら…。女性は、数年前、満面に笑みを浮かべていた社長を思い出していた。

 (出口有紀)

閉鎖後にA型事業所「パドマ」のシャッターに掲示された張り紙=名古屋市北区で
閉鎖後にA型事業所「パドマ」のシャッターに掲示された張り紙=名古屋市北区で