2017/08/14
労働を苦役に変える「クラッシャー上司」。当シリーズでは、部下をつぶしながら出世していくクラッシャー上司の存在を指摘しただけでなく、部下が持つ「イノベーションの芽」や「気付き」を無視することで組織を蝕(むしば)み、人命をも損なう危険性もあぶり出した。だが、今の管理職の多くはバブル時代にクラッシャー上司に育てられた人々。部下にどう接すればいいのか。
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「目からウロコで驚いた。まさに私を悩ませている上司そのものです」。そう言うのは、関東地方の編集会社に勤める40代前半の女性Aさんだ。本紙の記事を読んだという。主に地域ニュースをカバーする仕事。Aさんはスポーツ担当のチームで、6人のスタッフを仕切るキャップだった。
仕事は楽しかった。だが、雰囲気が変わったのは、さほど年の違わない女性の先輩Bさんが担当チームの部長になってからだ。Bさんは女性として初めて部長に抜てきされ、社の期待も本人の意気込みも高かった。キャップのAさんにとっては、直属の上司。部長との2人3脚でチームを動かすべき立場だ。
だが、Aさんは言う。「B部長は私に連絡も相談もなく、頭越しで現場に指示するようになったのです。スポーツ担当の経験もないのに仕切るので、企画は行き当たりばったり。スタッフからは『B部長は何を考えているのか。Aさん、ちゃんと言ってるんですか』と突き上げられるが、私は何も聞いてない」。Aさんは堰(せき)を切ったように話す。
「もちろんB部長には言いましたが、態度を変えません。何度も衝突した揚げ句、ついにはチーム全員の会議でB部長は『私とAとは平行線だから』と公言。私は居場所をなくしました」。B部長との確執に疲弊したAさん。心を病み、休職を余儀なくされた。
Aさんのケースについて、人材開発コンサルタントで早稲田大ビジネススクールでも教え、今年2月には著書「リーダーのための!コーチングスキル」(すばる舎)を発刊した谷益美さん(43)はこう見る。「ベテランのAさんに、不慣れなところで部長になったBさん。初の女性部長として成果を上げなければと焦りを感じていたことでしょう」
その心情を踏まえた上で谷さんは言う。「ポイントは、なぜB部長はAさんに相談しなかったのかにある。組織である以上、仕事は『チームとしての成果』に焦点を当てる必要がある。チームの要であるAさんの力を引き出そうという視点が生まれるはずです。ですが、B部長は、チームではなく『自分が成果を上げること』に焦点を置いていたのではないか。だとしたら、Aさんの存在はB部長にとって、脅威だったのかもしれません」
チームで仕事をしているのに、リーダーが個人の手柄にこだわるところに確執は生まれる。貴重な人材をつぶす。「そうではなく、対話を通じて相手のやる気や考える力を引き出す。メンバー1人1人の成長を促す。そうすることで、チーム全体の力を上げ、成果につなげる。これが『コーチング』と呼ばれる技術です」と谷さんは言う。
「今や厳しいグローバル競争の時代。過去のやり方が瞬く間に通用しなくなります。その中で企業が確実に成果を上げるにはどうしたらいいか。メンバー1人1人の力を最大限に引き出すリーダーの存在が不可欠なのは自明です」と谷さん。これからの時代、クラッシャー上司など百害あって一利なしなのだ。
その要となる「コーチング」とは何か。21日の次回、考えてみよう。
(三浦耕喜)
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