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【暮らし】普及進まない「テレワーク」 日本的な人事評価が壁に

2017/08/07

 情報通信技術を活用し、自宅など職場以外の場所で働くテレワーク。時間を有効に使え、子育てなどと仕事との両立を図れる柔軟な働き方として、制度を導入する企業もある。政府も以前から普及に取り組むが、認知度は低く浸透していない。専門家は、職場で長時間働く人が評価されがちとして、「日本的な人事評価の仕組みが普及を阻んでいる」と指摘する。

 ◇ ◇ ◇

 テレワークはノートパソコンなどを使い、場所や時間にとらわれない働き方を指す。働く場所は自宅のほか、顧客先や職場以外のオフィスなどがある。政府は3月の働き方改革実行計画にもテレワーク推進を盛り込んでいる。

 「資料作りは、在宅勤務の方が集中でき、はかどります」

 外資系の医薬品メーカー「MSD」(東京都千代田区)で、賃金制度の設計を担当する奥田顕(あきら)さん(28)はテレワークの利点をそう語る。

 在宅勤務制度を活用し、2週間に1回程度、中野区の自宅の書斎で働く。会社員の妻(30)と長男(1つ)の3人暮らし。通勤時間は片道約45分。テレワークの日は満員電車に揺られずに済む上に、仕事の荷物を持たずに保育園の送迎ができ、負担軽減になっているという。

 「自宅勤務といっても会社にいるのとほとんど変わらず支障もない」。会社の自席にかかってきた電話は自分のパソコンに転送され、パソコンのカメラとマイクで作成中の資料をもとに意見を交わしたり、社内会議に出席したりできるからだ。在宅でも、やらなければいけない仕事なので怠けることもなかったという。

 同社の在宅勤務制度は、年間何日でも利用可能。取得理由も問われない。奥田さんは長男の送迎担当日や、集中して事務作業したい日に活用している。同社広報は「(テレワークの導入で)育児や介護を抱えていても活躍でき、多様な人材が力を発揮できる」と話す。社員約3800人の同社では、毎月500人前後が利用する。

 しかし一般的には、テレワークの浸透度はいまひとつ。国土交通省のテレワーク人口実態調査によると、企業や官公庁などに雇用されて働く在宅型テレワーカーは8・3%(2014年)にとどまる。また活用した人で、業務効率が向上した人は多いが、低下した人もいるなど導入効果は必ずしも定まっていない。労働時間管理が難しく、長時間労働が進むとの懸念もある。

 テレワークに詳しい富山大経済学部の柳原佐智子准教授(経営情報システム論)は、日本的な人事評価の問題を指摘する。

 「日本企業、特に中小企業では、上司が目の前で看守のように部下を監視して評価するのが一般的。その上で長く働くことが賛美される」。目の前で働かないテレワーカーは評価されにくいという。

 また職務範囲を厳密にしない労働慣行も影響しているという。柳原准教授は「職場で、あれこれする人が上司の目にとまるので評価されがち。すると職場にいる人がいない人の分まで仕事をすることになって、テレワークをする人に不満を持つ。逆にテレワークをする人は引け目を感じてしまう」と解説する。

 柳原准教授は、育児などとの両立以外にも、テレワークで解決できる問題は多いとする。例えば、けがで出社困難でも自宅ならデスクワークができ仕事を進められる。また上司が社外にいても決裁印を押せば仕事が滞らない。

 柳原准教授は普及の条件として、「会社にいなくても仕事をした人をしっかり評価することが大切。また多様な働き方を受け入れる寛容さを一人一人が持つことも求められる」と話す。

自宅で仕事をする奥田顕さん=東京都中野区で
自宅で仕事をする奥田顕さん=東京都中野区で