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【暮らし】リーダー職の育成急務 介護現場でのチームケア

2017/06/14

 複数の職員たちのチームで利用者を介護する特別養護老人ホーム(特養)などの施設で、チームをまとめるリーダーの確保が課題になっている。職員を束ね、看護師らと相談してケアの仕方を決めるなど重要な役割を担うが、慢性的に人手不足が続く介護現場では、十分な経験を積む前にリーダーを任されることで、戸惑い、離職してしまう人もいるのが現状だ。

 「多方面から頼られるリーダーを、私が引き受けるのは無理。まだそこまでキャリアを積んでいない」。神奈川県横須賀市の特養で八年間働く介護福祉士の女性(32)は話す。女性が働く特養は、少人数の利用者を家庭的な雰囲気の中で介護するユニットケアを採用している。介護する職員は、各ユニットで常勤2~3人とパート1~5人の職員がチームを組む。

 リーダーは常勤職員から、経験年数や仕事ぶりなどで選ばれる。女性も4年ほど前に務めたが、職員の不和をおさめるのに苦心し、自分から1カ月で配置換えを申し出た。「人間関係の調整が一番大変で、帰宅後も気が休まらなかった。年上の新人やベテランの部下らにも注意しないといけないのは、大きなストレス」

 さらに、利用者の状態に応じて介助方法を変更し、そのことをケアマネを通して家族に説明するのもリーダーの仕事。「変更をめぐってチーム内で意見が合わないときもあるが、皆の話を聞いて、協力し合う態勢をつくっていく能力が必要。マニュアルや研修では身に付かないし、先輩を見て、学ぶしかない」

 5月下旬に東京であった日本介護福祉学会主催の公開講座。リーダーの役割や育成をテーマに、4人が討論した。介護福祉士を養成する岡山県立大の谷口敏代教授は「施設に就職した卒業生の中には、早い時期にリーダーに任命され、年上の部下や同僚との衝突に悩む人もいる。(介護福祉士の養成課程に)リーダーになる意味などを学ぶ科目も必要」と指摘した。中堅の介護職が離職する例にも触れ「介護の仕事は好きだが、引っ張っていく役は嫌という人もいる。施設長は、職員の能力を見極めないといけない」と話した。

 東京都や鳥取県で介護施設などを運営する社会福祉法人「こうほうえん」で、職員研修を担当する梅本旬子(じゅんこ)さんは「業務の調整や交渉がうまくいかず、多くの業務を自分でかぶるリーダーもいる。仕事に優先順位をつけ、リーダーにしかできない仕事をするよう呼び掛けている」と紹介した。

 国の社会保障審議会の専門委員会も、チームケアの推進に向けて、リーダーの育成を重要視する。チーム内のサービスの質を向上させる方法など、リーダーに必要な知識や技術を習得する研修を検討している。

 学会長で、介護職のチーム作りなどを研究する京都女子大の太田貞司教授は「介護職がチームで少人数を介護する施設が増える一方、『チームをまとめる教育を受けていない』と、リーダーを辞めてしまう人もいる。実態の検討を進め、チーム運営などを学べる機会をつくり、キャリアアップできる仕組みを考えないといけない」と話す。

 (出口有紀)

 <ユニットケア> 特別養護老人ホーム(特養)で利用者を10人程度の少人数に分け、介護職がチームで利用者に添ったケアをする。各利用者の個室と、居間などの共有空間が一つのユニット。相部屋が基本で大勢の利用者をみる従来の特養とは異なり、利用者のプライバシーや家庭的な雰囲気づくりが重視される。ユニットごとにリーダーとなる職員の配置が義務付けられている。

リーダー養成の課題などについて話す専門家ら=東京都新宿区の目白大で
リーダー養成の課題などについて話す専門家ら=東京都新宿区の目白大で