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【暮らし】専門家が試算 人間らしく暮らすには最低賃金1500円必要

2017/05/22

若者に夢のある数字「病院行ける」「貯金できる」

 働き方に関係なく、すべての人にかかわる最低賃金(最賃)は現在、全国平均で時給823円。政府は働き方改革実行計画で、年3%程度の引き上げを続け、全国平均を時給1000円にすることを目指す。一方で「1000円では不十分。人間らしい生活のためには時給1500円が必要」と訴える人たちが現れ、支持も広がっている。

 最賃は、労働者の生活安定などのため、国が定める1時間あたりの賃金の最低額。すべての労働者に適用される。都道府県ごとに額を決め、使用者はそれ以上の賃金を支払わねばならない。

 最賃1500円を訴えるのは首都圏の学生や若い労働者らでつくるグループ「エキタス」。4月の新宿でのデモに約1500人が集まった。初めてデモをした2015年から人数は倍に。支持は着実に広がっている。

 エキタスが、最賃1500円が実現したら何をしたいかをネットで尋ねると「病院に行ける」「長時間のバイトをしないで済む」などの声が集まった。エキタスのメンバーも「夢のある数字。これなら生活を改善できる」と話す。

 最賃1500円は妥当と指摘する専門家もいる。静岡県立大短期大学部の中沢秀一准教授(社会保障論、写真)は、各地の10代から70代までの男女約7000人に、生活実態と所持品の調査を実施。住むエリアや年齢、性別、単身か家族かなどモデルごとに、「きちんとした生活を送るために必要な費用」を意味する最低生計費をはじき出した。

 一人暮らしの25歳男性の最低生計費=表=には、映画などの趣味を月2、3回楽しんだり、友人と月2、3回は夜に外食したりする費用も含む。中沢さんは「健康に暮らすための質を確保し、人間関係を維持するための交際ができるのも人間らしい生活に必要」と解説する。

 中沢さんによると、都市部は住居費はかかるが、交通費は公共交通網が整っていて抑えられる。反対に、車社会が前提の地方は交通費が高くなる。このように地域で事情が異なるため多少の差はあるが、社会保険料と税金を含めて、月150時間労働で計算すると、「全国的にみてほぼ最賃に150円以上は必要な計算となる」とする。

 零細のアパレル企業で働く30代後半の女性は都内で1人暮らし。給与は額面22万円だが、平日は連日残業で土曜日出勤も。このため時給に換算すると約950円。都の最賃(932円)をわずかに上回る程度だ。1K(約15平方メートル)の家賃は6万円でテレビもない。残業で自炊する時間が削られ外食を強いられる。女性は「だから貯金もできない。将来が心配で、好きな人と一緒になろうと言えない」と嘆く。

 政府は最賃1000円を目指しているが、目標時期は未定。支払い能力のない企業の存在や企業収益を圧迫する恐れなど使用者側の懸念が強いためだ。

 中沢さんは「若者が将来に希望を持つためにも、最賃1500円を目指す必要がある」と指摘する。

 (寺本康弘)