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【カルチャー】過労 自分追い詰めないで ネット発漫画 共感呼びヒット

2017/05/13

 働き過ぎをテーマにした漫画『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』(あさ出版)が、異例のヒットを飛ばしている。始まりは地方在住のイラストレーターが、電通社員の過労自殺問題を機にインターネットで発表した小品。それが新人編集者の目に留まり、1冊の本になった。多くの共感を呼んだ背景に、日本社会の息苦しさが透けて見える。(岡村淳司)

 作者の汐街(しおまち)コナさんは大学卒業後、デザイン会社に就職した。中学時代から憧れていたデザイナーになったが、常態化した長時間労働に疲れ果てた。でも、周囲を見渡せば、自分以上に働く人ばかり。「頑張るのが当たり前なんだ」とますます自分を追い詰め、自殺を考えるようになった。そんな時、駅で偶然会った幼なじみのひと言で、ふとわれに返る。「そんな会社、辞めればいいじゃん。ばかじゃないの?」。一念発起して転職し、もう一つの夢だった漫画家への道も目指し始めた-。作品はそんな実体験が下敷きだ。

 電通新入社員の高橋まつりさんの過労自殺にショックを受けた汐街さんが昨年10月、ツイッターで八ページの作品を発表。共感した30万人がリツイートで拡散し、海外を含めさまざまなメディアに取り上げられた。

 作品ではのっぺりしたキャラクターと分かりやすい比喩を多用して、単純明快にメッセージを伝える。汐街さんは描線の多いシリアスなタッチが得意だが、あえて情報量を減らして、疲れた人でも気楽に読めるようにしたという。特に強調したのは、うつ状態の人がどれだけ自分や周囲が見えなくなるか。「不幸競争は、やりたい人に勝手にやらせておきましょう」「『俺がやらねば誰“が”やる』でなく『俺がやらねば誰“か”やる』の気持ちで」など印象的な言葉をちりばめた。精神科医で漫画原作者のゆうきゆうさんも登場。健全に頑張り続けるためには、▽自分自身で決める▽成果が分かりやすい-の二点が大切だと説く。

 あさ出版で書籍化を企画した編集者の淡路勇介さん(28)も、かつて大手家具販売会社に入社したがすぐに辞め、フリーライターに転身した経歴を持つ。過労自殺のニュースを見て「なぜ会社を辞めないんだろう」と疑問を抱いたが、汐街さんのネット作品を見てはっと気付かされたという。自身も入社したての新人ながら、熱心に周囲を説得して出版が実現。元の作品に大幅加筆した本が先月初版8千部で発売され、今は6万2000部まで増刷された。淡路さんは「国の規制を頼みにする前に、自分が自分を守らなければいけない。この本が自身を客観的に見つめてもらうきっかけになれば」と願う。

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 汐街さんは具体的な経歴を公表していない。本作を描いたことは、夫にも内緒にしているそうだ。今回のインタビューでも顔出しはNG。代わりに描き下ろしの自画像でメッセージを寄せてくれた。

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汐街さんの自画像とメッセージ

 この作品への反響は予想より遥(はる)かに大きく、逃げられない人がこんなにもいるんだと驚きました。世の中にはテキトーに生きてる人がいっぱいいます。自分の人生で何が一番大切かを常に意識してください。仕事をする本当の目的は何かを見失わないでください。

いずれも汐街さんのネット作品の一こま
いずれも汐街さんのネット作品の一こま