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【暮らし】発達障害に特化し就労支援 埼玉県が先駆的試み

2017/02/02

 発達障害や、その可能性のある人を対象にした就労支援センターを埼玉県が開設し、相談から職場定着まで一貫してサポートしている。障害の特性に応じた訓練を行い、就職面接にはスタッフが同行する。厚生労働省によると、発達障害に特化した公的な就労支援機関は全国的に珍しいという。

 ◇ ◇ ◇

 埼玉県内に4カ所あるセンターの一つ、ジョブセンター川口(川口市)。オフィスを模した部屋で、20人ほどの男女が就労訓練を受けていた。

 新聞紙で手提げ袋を作る男性に、上司役のスタッフが「これと同じように」と実際に作製し手本を見せている。センター長の加藤正美さん(48)が「前と同じようにやっておいてと指示するだけでは戸惑うが、具体的に指示を出せば十分に力を発揮できる」と説明する。

 発達障害には、自閉症や注意欠陥多動性障害(ADHD)などがあり、コミュニケーションが苦手なことが多い。就職でつまずくなどして、大人になってから障害に気付くケースもある。

 センターは、県が2011年度から始めた発達障害者支援プロジェクトの一環で、14年に川口市と草加市で、15~16年に川越市と熊谷市でも開設した。ハローワークや福祉事業所に分散していた支援事業を集約。これまで行政の支援が行き届かなかった発達障害の可能性がある人も利用可能とした。

 県によると、4つのセンターで昨年末までに相談を受けたのは1987人。7割は20~30代の若者で、そのうち200人が就職し、離職は27人にとどまった。

 県担当者は「就職面接にセンターのスタッフが同行して障害への理解を企業側に促し、就職後も企業との橋渡し役を務めるなど、継続的な支援が功を奏している」と分析する。

 過去に2つの勤務先をいずれも1カ月半で辞め、ジョブセンター川口を利用した川口市の鈴木将斗さん(27)は15年9月、「ウエルシアオアシス」(さいたま市)に入社した。同社はドラッグストアチェーン「ウエルシア薬局」の障害者雇用を目的とした特例子会社。指導員が職場を巡回して定着支援をするなど、障害に配慮した環境づくりに努めている。

 鈴木さんは、店舗スタッフや事務の仕事を経て、現在は清掃を担当。上司の大場規行さん(62)は「気になる汚れがあると、その清掃にかかりっきりになってしまうこともあるが、仕事はとても丁寧」と評価する。これまで無遅刻無欠勤の鈴木さんは「親切に指導してもらえるので安心して働ける」と笑顔を見せた。

 16年8月に施行された改正発達障害者支援法は、国や都道府県、事業主が、障害の特性に応じた就労支援を充実させるよう規定した。厚労省の担当者は「埼玉県のようにトータルな支援は果たす役割が大きい。他県も参考にしてほしい」としている。

【企業の障害者雇用】 厚労省によると、従業員50人以上の民間企業で働く障害者は、2016年6月時点で前年比4.7%増の約47万4300人。前年より約2万1000人増え、13年連続で過去最多を更新した。発達障害者は、一部はこの統計に含まれているとみられる。障害者雇用促進法は、事業主に対して一定割合以上の障害者を雇うことを義務付けており、達成できない場合は行政指導や納付金徴収を受ける。

就労訓練で、上司役のスタッフ(左)の手本を参考に新聞紙で手提げ袋を作製する利用者=埼玉県川口市のジョブセンター川口で
就労訓練で、上司役のスタッフ(左)の手本を参考に新聞紙で手提げ袋を作製する利用者=埼玉県川口市のジョブセンター川口で