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【暮らし】<なくそう長時間労働>社長さんの「残業ゼロ」術

2017/01/16

福岡の中小企業
・お客様は神様×
・売上↘
・仕事量↓
…でも、利益率↑

 多くの職場で取り組む必要がある長時間労働の撲滅。組織の大きい大企業よりも、身軽な中小企業の方が経営者の決断で動きやすい場合がある。これまでの仕事の常識を覆す発想で顧客至上主義を捨てて、「残業ゼロ」を達成した中小企業が福岡市にある。

 ◇ ◇ ◇

 「初めのころは朝礼で名指ししていたんですよ。『○○さん、有給休暇をまだ取っていませんよ』と」

 福岡市早良区にある建設資材リース業「拓新産業」で、社長の藤河次宏さん(70)はこう笑う。有給休暇の消化率が悪い社員の名前を掲示板に貼り出したことも。「こうすれば、建前ではなく本気で言っていると分かるでしょう」と狙いを明かす。

 同社は従業員約70人で、主に建設現場の足場をレンタルしている。建設は工期があらかじめ決められ、作業も遅れがち。残業して、休日も働いて、何とか間に合わせることが業界の常識だ。

 にもかかわらず、同社の有給休暇取得率は100%。完全週休2日制で、残業もほぼゼロだ。正確には1人平均で年2時間ほど。「何年もかけてこういう仕組みをつくってきたからです」と藤河さんは胸を張る。

 きっかけは30年ほど前。新卒者採用のため、初めて企業の合同説明会に参加した時だ。藤河さんが座る同社のブースには学生が1人も来なかった。「建設関係の中小企業となると、こんなふうに見られていたのかとショックで」と振り返る。

 このままでは人材確保もおぼつかない。きつい仕事というイメージを脱するポイントは、「休みやすい職場づくりにある」と藤河さんは考えた。まずは労働基準法など関連法規を読み込み、社内の規則を整えた。「でも、それだけでは動きません。仕事の中身に切り込まないと」

 確かに、上司は「休め、休め」と言うだけで、業務量はそのままで、人手不足のため1人当たりではむしろ上乗せという職場は少なくない。かえって、それは自宅残業や、残業時間の過少申告を促す背景にもなる。では、藤河さんはどうしたのか。

 取り組んだのは「お客さまは神様です」という顧客至上主義を捨てたことだ。「うちは残業しないと取引先に説明して回りました。土曜日はローテを組み、代休を取りながら対応していますが、休日は仕事を受けないとはっきりさせました」

 そうすると仕事が逃げていかないか。藤河さんは逆手に取り、「むしろ、それを仕事を整理する好機にしました」。それまでは1社で売り上げの2割近くを占める得意先があったが、売り上げの多い取引先の仕事はあえて減らした。

 「特定の社に依存すると、どうしても無理を聞かねばなりませんから」。大口の上得意を作るのではなく、広く薄く取引関係を築く方針に転じた。

 「客の無理に対応しようとすれば、その分こちらも無理をする。売り上げは伸びても、それ以上にコストがかかります」と藤河さん。実際、売り上げは伸びていないものの、利益率は上昇傾向にあるという。

 うれしかったのは、就職活動シーズンになると、2、300人もの学生が、市の中心部から1時間かかる同社に足を運んでくれるようになったこと。ブースに閑古鳥が鳴いていた中小企業は一躍、人気企業になった。

 藤河さんは「トップが本気でやろうとするのが大事。『こんなことしたら、経営に悪影響が出るのでは…』と想像して不安になるのではなく、何ができるか工夫すればいいのです」と話す。