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【暮らし】<なくそう長時間労働> 防止へ一席、過労死落語

2016/01/09

 笑いを通じて過労死を防ごう-。大阪市のお笑い集団「笑(しょう)工房」が、過労死問題について考える創作落語をつくり、各地で演じている。人の命にかかわる重いテーマでも、笑いの中でこそ伝わることがあるとして、大切な人を過労で失った家族の思いを噺(はなし)に込めた。 (三浦耕喜)

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 福岡市内で昨年開かれた過労死防止に関するシンポジウム。上方落語家の桂福車(ふくしゃ)さんが高座に上がった。「(長時間労働を強いる)娑婆(しゃば)の会社は鬼やなあ。あっ、鬼はわしか!」。鬼のぼけに会場はわいた。

 創作落語「エンマの願い」の一場面。過労のために自殺した青年が、極楽行きか、地獄行きかを審査する関所「閻魔(えんま)の庁」で、鬼の取り調べを受ける。おおむね月八十時間以上の過労死ラインを超える長時間労働を強制されながら、残業代もまともに付かなかったことを聞いた鬼の驚きが冒頭のせりふだ。

 落語には元となったモデルがいる。2006年に過労のため死亡した兵庫県出身の西垣和哉さん=当時(27)=だ。大手IT企業のシステムエンジニアとして神奈川県で働いていたが、徹夜続きの勤務の末にうつ病を発症。事故か自殺かはっきりしないが、大量の服用薬を飲んで亡くなった。「うつの原因は確実にお仕事」「生きていくのが無理、という闇が心を支配します」とブログに書き残していた。

 裁判で労災認定を勝ち取った母親の迪世(みちよ)さん(72)は、過労死遺族でつくる団体のメンバーとして、「過労死等防止対策推進法」の制定を呼び掛けた。落語では、そのための署名活動などに奔走した家族らも描写。国連にも働き掛けて過労死防止対策を日本政府に勧告させ、14年に同法は国会で全会一致で成立することとなった。

 落語の台本を書いた笑工房代表の小林康二さん(77)も、13年に39歳だった娘婿を自殺で亡くした。安定した仕事を求めて理学療法士の勉強をしていた時、実習先でパワハラに遭ったのだ。かつて労働組合の専従職員だった小林さん。それまでも笑工房の活動を通じて労働問題を取り上げてきたが、身近な人の死をきっかけに、活動に拍車がかかった。

 落語づくりには迪世さんらもアドバイスし、家族も納得する作品に仕上がった。落語を聞いた迪世さんは「笑いは人の気持ちをほぐし、直接心に訴える。私も笑いながら、息子の思いがズドンと入ってくるような気持ちです」と話す。

 小林さんは「笑いには世の中の課題を問いかけ、人を励ます力がある。落語が多くの人に過労死の問題について考えてもらうきっかけになれば」と話している。
 落語の問い合わせは笑工房=電(6308)1780=へ。

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◆2割の企業で月80時間超す残業 

 過労死等防止対策推進法 過労死や過労自殺の防止を理念とした初の法律で、働き過ぎが原因で亡くなることを防ぐ対策を国の責務と定めた。2014年月に施行された。

 国の対策は①過労死の実態調査・研究②教育、広報など国民への啓発③産業医の研修など相談体制の整備④民間団体への支援-など。規制や罰則はないものの、自治体や事業主にも対策に協力する努力義務を求めている。

 16年10月には同法に基づく初の「過労死等防止対策白書」が閣議決定され、月80時間を超えて残業をした正社員がいる企業が2割を超えるなどの実態が明らかになった。

「過労死は、防げる人災」と訴える桂福車さん=福岡市で
「過労死は、防げる人災」と訴える桂福車さん=福岡市で