2016/10/17
同一労働同一賃金どこへ
働いてもアシが出る
課税でダブルパンチ
通勤にかかる費用は、働くだれにとっても必要経費のはずだが、現実には多くの派遣労働者が受け取っていない。政府の「働き方改革実現会議」でも論議されている同一労働同一賃金の観点から適切なのかどうか、派遣業界の対応が問われている。(三浦耕喜)
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「通勤しているのはみんな同じなのに、なぜ通勤費の出る人と出ない人がいるのか。意味がわからない」。東京都町田市に住む派遣社員の女性(40)は、通勤費の付かない給与明細に目を落としながらつぶやいた。
女性は人材派遣会社に登録し、大手自動車会社の技術系部署で働く。時給は約1900円。月の手取りは25万円ほどだ。職場には電車で通うが、月1万円ほどかかる電車賃は支払われない。
「求人で『時給いくら』と書いてあっても、通勤費を自己負担すれば目減りする。毎月、1日分くらいのお金が通勤費に消えるのはつらい」
仕事に通えば通勤費が発生するのは当然だ。だが、大半の派遣労働者には厳しい現実がある。業界団体の日本人材派遣協会が2012年に行った調査では、78%の派遣労働者が「通勤費を支給されていない」と答えている。
しかし、そのことで派遣労働者はさらなる不利益を被っている。
通勤費が別で支給されていれば通勤費は税法上の必要経費扱いとなる。だが、自分の給与から通勤費を出している派遣労働者は、通勤費分も所得に計算されている。通勤費に自腹を切った上に、その分の税金も取られていることになる。
なぜ通勤費を支払わないのか。派遣業大手のテンプホールディングス広報担当は「派遣で働く人には自分で仕事を選ぶ選択肢がある。勤務地も明示しており、自宅から近いところも選べる」と説明。同じく大手のスタッフサービス・ホールディングス広報担当は「給与は職務への対価として支払われている。仕事も本人の希望に合ったものを紹介している」。
業界の主張は、派遣では仕事そのものの対価として給与を支払っており、勤務地などの条件は本人も納得して仕事を選んだはずだ-という理由のようだ。
これに対し、派遣労働者でつくるNPO法人「派遣労働ネットワーク」などは今年8月、人材派遣協会に通勤費支給を推進するよう要請した。労働組合「派遣ユニオン」の関根秀一郎書記長は「同じ派遣会社でも、正社員や無期契約の派遣労働者には通勤費が支給される。大半を占める有期契約の派遣労働者に対する明らかな差別だ」と指摘。有期・無期で労働条件に不合理な差を設けることを禁じる労働契約法20条に反すると主張する。
労働法制に詳しい名古屋北法律事務所の白川秀之弁護士によると、労働者派遣法では、派遣労働者の賃金は派遣先の賃金水準との「均衡」を考慮しながら決めるよう定めている。「処遇を差別しない『均等』と、ある程度の違いの中でバランスを取る『均衡』とは法解釈も違うが、法律上賃金には通勤費も含まれており、通勤費にも配慮すべきだという方向性は明らか」と話す。
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