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【社会】核心/配偶者控除見直し本格化 働く主婦になお壁

2016/09/25

社会保険料負担 少ない正社員枠

 年収103万円以下の主婦らがいる世帯の税負担を軽くする「配偶者控除」の見直し議論が本格化している。政府税制調査会は今月に入り2度の会合を開いて協議。自民党税調も近く議論を始める。政府・与党が見直しを急ぐ背景には、税負担を軽くするため、就労時間を抑えてきた女性たちに多く働いてもらい、経済成長につなげる狙いがある。だが女性の就業を阻む制度の「壁」は、その他にもまだある。
 ◇ ◇ ◇

 ■消費増も狙い

 甘い香りが漂う工場で女性たちが、焼きドーナツなどを手作りする。パンや洋菓子を製造するクラブアンティーク(名古屋市)の名古屋工場は約50人いる従業員の8割がパートだ。

 会社員の夫(41)と中学3年、小学2年の2人の息子を持つ工藤亜由美さん(38)は「103万円の壁」を超えないように勤務時間を調整してきたが、「今年は超える覚悟で働いている」と打ち明ける。稼いだ給料は、大部分が子どもの塾と野球教室の費用に消えてしまう。「控除が見直されるならうれしい。もっと働いて、経済的に余裕を持ちたい」と歓迎する。

 白石建太工場長(31)は毎年、人手が不足する繁忙期のクリスマス前は頭を抱えている。「意欲も経験もあるパートさんの勤務制限が無くなれば貴重な戦力が増える」と期待を寄せる。

 配偶者控除は妻の年収が103万円以下なら夫の課税所得から原則38万円が控除でき、所得税を減らせる仕組み。だが103万円を超えると使えず、夫の税負担が増える要因になる。このため働く時間を故意に減らす「就業調整」をする主婦も多い。

 安倍政権は2021年度に物価変動を考慮しない名目国内総生産(GDP)を600兆円に増やす目標を掲げるが、消費は低迷。政府には「配偶者控除の見直しで女性を労働市場に呼び込み、所得増と消費増につなげたい」との思いもある。

 だが、女性の就労時間を増やしにくくする壁は配偶者控除以外にもある。

 全国の企業の約半数は社員に支払う配偶者(扶養)手当の支給条件を「配偶者控除と同じ」と定める。人事院によると平均支給額は月約1万4000円。これも「手当を失うなら就業調整をしよう」と思う要因だ。

 社会保険料負担の壁もある。現在は年収130万円以上で年金や健康保険の保険料負担が生じる。さらに10月からは一定の条件を満たすと、年収106万円以上で社会保険料の支払い義務が生じる人が出てくる。4年前の法改正で決まった制度変更の時期が配偶者控除見直し議論と重なった。

 ■環境整備を

 配偶者控除からの移行で有力なのは配偶者の年収や働き方を問わず、全ての夫婦に適用する「夫婦控除」の導入だ。税収減を防ぐため、高所得者を対象外にする案もある。増税になる世帯、ならない世帯の収入の線引きが焦点になる。

 15日の政府税調会合では出席者から「就業調整をなくしても世帯の収入は劇的に増えない」(全国消費生活相談員協会理事長の吉川万里子氏)との意見も出た。正社員とパートの賃金格差は大きく、正社員の働き口は限られる。家庭の事情で社会保険料負担を上回る収入を得るほど、一気にパートの就業時間を増やせない女性も多い。

 税制に詳しい青山学院大の三木義一学長は「男性の非正規雇用が増え、これが妻を働かざるを得ない状況に追い込んでいる一面もある」と指摘。就業調整をせずに働く人を増やすには「女性が働きたくなる職場環境や、保育所などを含めた社会全体の仕組みを整える必要がある」と強調する。
(東京経済部・白山泉、名古屋経済部・久野賢太郎)

【配偶者控除の見直し議論】

 首相の諮問機関の政府税調は9月から配偶者控除を含む中長期的な所得税改革の議論を始めた。毎年末に翌年度以降の税制改正を決める自民、公明両党の税調も10月ごろ議論を開始し年末に見直し案をまとめることを検討している。1992年に専業主婦の世帯数を上回った共働きの世帯数は、2015年に全体の約6割を占める1114万世帯に達した。一方で専業主婦がいる世帯も687万世帯あり、議論は難航も予想される。