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【暮らし】雇用安定こそ役割 積極的に待遇改善を提案

2016/08/22

 労働組合の組織率が下がる中、1人でも加入できる個人加盟労組が活動の幅を広げている。発足してから5年目に入ったプレカリアートユニオン(東京都渋谷区)の清水直子委員長(43)に、雇用不安定な時代の労組の役割について聞いた。

 -個人加盟労組とは。

 プレカリアートユニオンは2012年4月に発足した個人加盟の労組です。発足時は組合員数20数人でしたが、今は250人ほどになっています。

 従来の日本の労組は企業内組合が主で、会社に入ると労組に入り、会社を辞めるのは組合を辞めることを意味していました。ですが、今の若い世代は転職が当たり前。組合員としての資格が雇用状況によって変わっては、労組が成り立ちにくい時代になりつつある。その点、個人加盟労組は個人の資格で組合員になれる。会社を退職したとしても、組合員として組合に残る。職の移動にかかわらず組合員でいられます。

 -プレカリアートユニオンの役割は。

 個人加盟労組は、残業代の未払いや雇い止めなど、個人がそれぞれの問題を抱えて加入します。ただ、「個別のトラブル対処」に終わってしまう傾向が強かった。それはそれで大切なことですが、多くの場合が退職を余儀なくされ、いくらかの解決金を手にして職を失ってしまう。何の補償もなく放り出されるよりはずっといいが、次にもっといい仕事が見つかるわけではありません。その職場の待遇も改善されず、残る人たちは同じ問題に苦しむことになります。

 労組の本来の目的は、労働者が使用者と交渉し、働き続けながら待遇を改善していくことです。現実には退職和解しか手のないこともあるが、できることなら仕事を辞めずに今働いている場を良くしたい。それを可能とする組合を目指して作ったのがプレカリアートユニオンです。

 -交渉の方法は。

 個人の救済にとどまらず、できるだけ集団となって力を付けなくてはならない。職場で多数を得ているわけではないので、ストライキの効果は限定的。会社や店舗前での街頭宣伝行動や、取引先への要請行動、ネット動画の投稿サイトに会社の姿勢の分かる動画を公開することなど、世の中に広く問題を知ってもらい、社会的に会社を包囲していくやり方を取っています。

 とはいえ、会社と信頼関係を築けないとよい交渉はできません。会社を敵視するのではなく、会社としてはどうすることが合理的なのかと説得します。時には業務改善の案を組合から出すこともあります。

 -雇用者側に変化は。

 ブラックな会社だと世の中に知られれば人手を確保できない。まともな人は寄り付かなくなる。争わずに話し合いで解決するのが、会社にとって一番いいという結論になるはずです。

 当初は、争えば確実に会社が負けるような案件なのに、弁護士や社会保険労務士など、違法すれすれの活動にお墨付きを与える「ブラック士業」の影響を受けて、無駄に交渉を引き延ばす対応がいくつか見られました。われわれは、引き延ばしをすればするほど会社も打撃を受けるという構図をつくるため、直接行動も激しくやります。

 会社側も、あまりもめない方が得策だと思い始めています。常時50件近い会社の案件にかかわっているが、激しい紛争にせずに解決を図ろうとする割合は増えていると感じます。

 (三浦耕喜)

【プレカリアート】「不安定な無産労働者」を意味する造語。非正規雇用や失業者などを指す。

労組の現状について話すプレカリアートユニオンの清水直子委員長=東京都渋谷区で
労組の現状について話すプレカリアートユニオンの清水直子委員長=東京都渋谷区で