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【暮らし】障害者が働くコンビニ 自立を目指し病院内に

2016/08/01

 一般企業への就職が難しい障害者に、働く場所を提供する「就労継続支援A型事業所」として、東京都の医療機関内にコンビニエンスストアがオープンした。運営会社によると、同事業所でのコンビニ経営は全国初という。新しい取り組みを取材した。

 ◇ ◇ ◇

 東京都板橋区の心身障害児総合医療療育センター。手足が不自由だったり、心身に重い障害があったりする子どもらのための施設で、外来やリハビリ、入退院などで日々、700人以上が訪れる。4万平方メートルを超える敷地には、病棟のほか、特別支援学校や職員の宿舎も。国の施設のため、これまで営利目的の売店はなく、自動販売機のみだった。

 7月下旬、同センター内にコンビニ「ポプラAプラス療育センター店」が開店すると、患者や家族、職員らでにぎわった。都内の母親(37)は「入院中の長男と一緒に病院に泊まっているので、ちょっとした買い物に助かる」。お菓子を楽しそうに選ぶ車いすの子どもたちの姿もあり、同センターの真野寛・事務部長は「入院中の障害者には買い物の訓練にもなる」と話す。

 コンビニを運営するのは、知的、精神、発達障害者の就労支援事業を展開する「フェスティーナレンテ」(板橋区)。レジに立つ女性(37)には発達障害があり、就労に必要なマナーやパソコン技術を学べる同社ビジネススクールの元受講生だ。「(混むと)ちょっと焦っちゃうけれど、働けるのが楽しいです」と笑顔。そんな働く様子を見て、長男(4つ)が入院する母親(34)は「将来の自立に向けて参考になるし、働く場所があるのは親としても励みになる」と言う。

 店内は車いすが2台通れるように、広めのつくりにした。主に接客を担う障害者は10人を雇用。職員は4人で、やはり広めのレジのカウンターでは、後方からサポートする。

 フェスティーナレンテの佐藤悟社長は「私も障害がある子の親。一番の思いは、企業の戦力として障害者が雇用され、働き続け、経済的に自立した生活ができること」。

 構想から開店までに3年半。大手コンビニには「事業収益が見込めない」として出店要請を断られ続けた。地元の信用金庫の紹介を受け、障害者に理解があり、店舗運営を任せる人材を探していたポプラ(広島市)と、フランチャイズ契約にこぎ着けた。

 佐藤社長は「就労の機会や訓練といった福祉の側面だけではなく、収益が得られる事業として成り立たせ、A型事業所に一石を投じたい。ビジネスモデルとして特許を申請中で、この取り組みが全国へ広がってほしい」と話した。


◆国が給付金、最低賃金も保障 「就労継続支援A型事業所」

 就労継続支援A型事業所は、一般企業での就労が困難な障害者が、雇用契約を結び、給料をもらいながら、就労に必要な訓練を受ける。事業所には、雇用契約を結んだ利用者1人当たり1日約6000円の給付金が国から入る。給付金は職員の人件費や経費などに充て、利用者には事業収益から最低賃金以上を支給する。

 厚生労働省によると、A型事業所は、ここ数年で増加傾向にある。全国で3158カ所(今年3月現在)で、6年前の約6・5倍。社会福祉法人のほか、NPO法人や民間企業も参入し、現在は半分が営利法人の経営になっている。

 事業所の中には、障害者の希望を無視して単純な作業しかさせず、短時間勤務にして賃金を減らすなど、不正が疑われるケースもあり、厚労省は昨年9月と今年3月、都道府県に指導の徹底を求めた。

 障害者の就労問題に詳しいNPO法人共同連(名古屋市)の斎藤縣三(けんぞう)事務局長は「給付金目当ての事業所があるなど問題も多く、コンビニなどきちんとした事業を展開するケースは珍しい」と話した。

 (発知恵理子)

生き生きと接客する「ユーザースタッフ」。障害のある子どもたちの希望でもある=東京都板橋区の心身障害児総合医療療育センターで
生き生きと接客する「ユーザースタッフ」。障害のある子どもたちの希望でもある=東京都板橋区の心身障害児総合医療療育センターで