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【社説】就活本番 氷河期の痛み忘れずに

2016/06/06

 企業の採用意欲が強く、学生側の売り手市場で経団連加盟企業の採用活動が解禁になった。就活を正規と非正規の分かれ道にしてはいけない。社会人の先輩である大人にできることはたくさんある。

 安定した収入、やりがいのある仕事を求めて社会の入り口に立つ学生にとって、内定を得るまでは緊張の連続だ。面接の質問に備え、例えば解禁日の1日に発表された消費税増税の延期は、しっかりと頭に入れただろうか。

 インターネットの普及は就職活動を大きく変えた。100社以上にエントリーシートを出す学生。数万人が応募する人気企業。不採用通知の数も半端ではなく「自分を否定されたようで落ち込む」という声も聞く。ネットをのぞくと、就活中の子どもに親がしてはならないのは「過保護」「過干渉」「無関心」-心配もさぞかしだろう。

 人生の一大事である就活の面接解禁日は2年続けて変更され、不安と混乱を広げた。昨年の8月真夏の解禁を2カ月早めた今年の評価はこれからだが、求めたい改革、改善はいくつもある。

 まず二転三転した選考時期の安定化は不可欠だ。2014年までの4月、昨年の八月、今年の6月と3度の経験を積む。学業への影響、海外留学生の受け入れなど課題はあるが、経済界と大学はしっかり議論し、学生の声も踏まえて採用時期を落ち着かせてほしい。

 企業には採用の一層の柔軟化を求めたい。定着している新卒一括採用には短所もある。ただ大企業に見直す機運がない以上、それを補う工夫がほしい。通年採用や既卒者採用の拡大、選考時期の分散化などは、企業が求める多様な人材の確保につながるはずだ。

 政府には、同一労働同一賃金の実現という重要な仕事がある。

 バブル崩壊後の不況下で迎えた就職氷河期から格差は広がり、急増した非正規社員の賃金は正規社員の六割程度。社会は深刻な痛みを抱えたままだ。一括採用をその分かれ道にしないためにも、仕事が同じなら同じ水準の収入が得られる制度作りを急がねばならない。働き方の選択肢を格段に広げることにもつながる。

 アベノミクスに対する国民の評価は厳しいが、世論調査では安倍政権に一定の支持と期待がある。一億総活躍プランが目指す所得格差の是正は国民の期待に沿う方向でもある。その期待にしっかりと応え、氷河期が残した深い傷の修復に力を注ぐべき時だ。