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【くらし】定年後の賃金カット「当たり前ではない」 「同一労働同一賃金」東京地裁判決

2016/06/06

 同じ仕事には、同じ賃金を払え-。定年退職後に再雇用された働き方を巡り、東京地裁がこのような判断を初めて下した。改正高年齢者雇用安定法により、65歳までの高齢者の雇用確保が企業に義務付けられてから3年。再雇用後に引き下げられることが多い賃金にも、同じ仕事には同じ賃金を払うべきだとする「同一労働同一賃金」の原則を当てはめた。

 ◇ ◇ ◇

 「定年前からずっと同じ仕事なのに、給料だけ減らされるのは納得いかない」

 東京都大田区のトラック運転手鈴木三成さん(62)は勤務先である横浜市の運送会社を訴えた心境を語る。

◆2~3割減収

 1980年に正社員として入社。セメントを運ぶ仕事を34年間続け、2014年3月に定年退職。引き続き1年契約の嘱託社員として再雇用された。

 「定年の前と後で、担当する車両は同じ。早朝から夕方まで働く勤務時間も、1日300キロ近くを運ぶ内容も変わらなかった」。だが、賃金は2、3割減らされた。労組を通じた会社との交渉でも進展はなく、鈴木さんは他の運転手2人とともに同年10月、会社を相手に訴訟を起こした。

 今年5月13日に東京地裁が下した判決は、鈴木さんらの主張を全面的に認める内容だった。焦点となったのは、再雇用による賃下げが労働契約法20条に違反するかどうか。

 20条では仕事の内容や転勤といった配置変更の範囲などが同じなら、無期契約の正社員と、嘱託など有期契約の契約社員との間で、賃金などの労働条件に不合理な差をつけてはならないと規定している。

 佐々木宗啓(むねひら)裁判長は判決で、鈴木さんらの仕事は定年前後で同じと認定し、賃金で差をつけるのは違法と判断した。鈴木さんらが再雇用の契約書を提出した際、会社は賃金などの条件を示して同意を得ていたが、この点も「契約書を提出しなければ就労できなくなるので、やむを得ず(同意して)提出した」との原告側の主張を採用した。

 さらに、再雇用した際に賃金を引き下げる背景にも言及。「定年退職者を再雇用して正社員と同じ業務に従事させる方が、新規に正社員を雇用するよりも賃金コストを抑えられることから、賃金コスト圧縮の手段としての側面を有していると評価されてもやむを得ない」と指摘した。

◆会社側は控訴

 鈴木さんらの裁判を支援してきた全日本建設運輸連帯労働組合の小谷野毅書記長は「同じ仕事を続けているのに、定年後の賃下げは当たり前だと誤解されている。それはおかしいと判決ではっきりした」と話す。

 会社側は判決を不服として控訴。本紙の取材に「裁判についてコメントはしない」としている。

 同一労働同一賃金を巡り、政府は閣議決定した「一億総活躍プラン」で、法改正やガイドラインの策定を打ち出している。鈴木さんは「企業が人件費を減らそうとしている以上、同一労働同一賃金も低い方の賃金に合わせる理由にされかねない」と心配する。

(三浦耕喜)

【高齢者の再雇用】
厚生労働省によると、99%の企業で何らかの再雇用措置を実施している。定年制を廃止または定年を引き上げた企業は2割以下で、8割以上の企業は嘱託による再雇用など。継続雇用後の給与水準は、雇用者数1000人以上の企業の4割が定年前の半分以下など、大手ほど引き下げ幅が大きい。