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【働く】女性運転手「トラガール」快走中!!

2016/05/02

トイレや勤務形態など働きやすい職場へ

 夜通し長距離を運転し、重い荷物を運ばなければならない運輸業界は、「男の職場」というイメージがとりわけ強い。だが、近年の人手不足のため、女性を積極的に受け入れている企業も出始めた。国や業界は「トラガール」と名付けて、女性が働きやすい職場にしようと、労働環境の改善を企業に働きかけている。 (稲熊美樹)

 愛知県弥富市にある桜運輸の敷地に、全長16.5メートルの大型トレーラーがエンジン音を響かせて入ってきた。荷台には最大30トン入りの輸出入用コンテナ。見上げるような大きさだ。

 エンジンが止まり、運転席から降りてきたのは同社社員の中野恵さん(37)。「お疲れさまでーす」と同僚に明るい笑顔を振りまいた。

 華奢(きゃしゃ)で「力持ちじゃない」という中野さんでも、大型トレーラーは問題なく運転できるという。「車の運転が好きなので、好きなことを仕事にできて、本当に幸せです」

 2年ほど前、携帯電話の求人サイトで同社の広告を見つけて応募。男性ばかりの職場には少し不安があったが、「女性の先輩が働いていることを知って安心した」と話す。

 同社の運転手61人のうち、女性は中野さんの他に7人いる。同社3代目の細江良枝社長(42)によると、女性が働きやすい職場にするため、さまざまな工夫をしている。

 まず女性専用トイレを設置し、それまでなかった女性の制服を導入。子どもの急病や学校行事で仕事に出られないときのために、けん引免許を持つ男性の事務職員に運転手が足りない穴を埋める役割を持たせ、誰でも心配なく急な休みを取れるようにした。暗い倉庫で女性が一人で仕事をしないように割り振りも工夫している。

 近くの名古屋港から東海地方を中心とした依頼先企業までコンテナを運ぶ近・中距離の仕事も多く、残業や泊まりが不必要なことや、コンテナは機械で積み降ろしをするため力仕事がないなど、女性が働ける同社ならではの事情もあった。

 同社が女性を採用し始めたのは2年前。仕事があるのに運転手が足りず、売り上げが伸び悩んでいたのがきっかけだった。細江社長は「会社の雰囲気が明るくなり、全体の離職者も減って事業も安定してきました」と話す。

◆国が助成金活用を呼び掛け

 2015年の国の労働力調査によると、道路貨物運送業のトラック運転手の男女比は、男性78万人に対して女性2万人。2・5%にとどまる。

 国土交通省が14年に女性トラック運転手約30人に調査したところ、▽トラック会社に応募しても、女性であることだけを理由に採用を断られた▽配送先などで安心して女性が利用できるトイレが足りない-などの声が出た。厚生労働省は、女性用のトイレや更衣室、シャワー室の設置など、女性が働きやすい環境を整えるために使える助成金などの活用を呼び掛けている。

 4月に施行された女性活躍推進法では、従業員301人以上の企業に、女性が働きやすくするための行動計画の策定や、採用者に占める男女比率などの公表を義務付けた。ただ、運輸業界の99%以上は従業員300人以下が占め、努力義務にとどまっている。

「トラガール」として、トレーラーで配送をしている中野恵さん=愛知県弥富市の桜運輸で
「トラガール」として、トレーラーで配送をしている中野恵さん=愛知県弥富市の桜運輸で