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【経済】どう防ぐ介護離職/企業は休業制度周知を

2016/04/18

 介護を理由とした離職をどう防ぐのか。介護を経験した人の3割が仕事を辞めようと思ったことがあり、実際に年間10万人が介護離職している現状を変えるため、介護休業制度などを従業員に伝えることなど、企業側の取り組みを求める声が強まっている。介護問題に取り組むNPOや労働組合などは、政策提言の取りまとめを目指している。(三浦耕喜)

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 「退職時はあまりにも慌てていて、介護休業制度があることも知らなかったし、会社で使える制度を調べる発想もなかった」

 祖母と父親、母親の介護のため離職を経験し、現在も遠距離で母親を介護している工藤広伸さん(43)=東京都=は、退職時の心理状況をこう話す。「職場に事情を明かして相談する雰囲気もなかったし、人事担当や上司からの説明もなかった」

 そんな体験から、「介護は、制度の情報を知ることこそ前提条件。会社の中で介護についてのセミナーを開くなど、情報を伝えていく取り組みが重要だ」と唱える。

 家族の介護離職を防ぐためには、職場での取り組みが欠かせない。雇用保険関連法の改正で、雇用保険を財源とする介護休業中の給付金が八月から賃金の40%から67%に引き上げられ、来年1月からは休業を3回に分けて取得できるようになるなど、制度づくりは少しずつ進んでいる。

 だが、実際に介護離職を経験した人たちは、制度づくりと同時に、そのことを広く知らせる取り組みが重要だと口をそろえる。介護を支えるためにどのような仕組みがあるのか、具体的にどう使えばいいのかについて、情報がないまま介護に直面して悩むケースが多いためだ。

 母親を自宅で13年間介護している一般社団法人「介護離職防止対策促進機構」代表理事の和気美枝さん(44)によると、介護は何の知識もないまま突然始まることが多いという。「私も最初は、自分のやっていることが介護という自覚もなかったし、ケアマネジャーに何を伝えていいかも分からなかった」と振り返る。

 介護休業・介護休暇の制度をつくる企業は増えているが、「いくつかの企業は制度づくりだけではなく、周知こそが重要だと気付き始めた」と指摘。現役の介護経験者が入って対策チームをつくったり、上司によるヒアリングに力を入れたりして、相談しやすい空気をつくろうとしている企業もあるという。

 介護について、職場で教育を受けることの社会的意味は大きい。「社員だけではなく、彼らと共に働く職人やアルバイトの人にとっても、介護について知っている人が身近にいる意味は大きい」と、和気さんは強調する。

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◆めざす会発足
◆仕事辞めない社会に

 「私たちは、家族も働く人も『介護離職のない社会をめざす会』を発足させ、活動を開始します」。3月23日に東京都内で開かれた発足記念フォーラムで、代表の1人を務めるNPO法人「高齢社会をよくする女性の会」の樋口恵子理事長は訴えた。

 めざす会は高齢社会の問題や介護の支援に取り組むNPO、連合など14団体が幹事となって構成。目標として「仕事と生活とケアが必要に応じ、バランスのとれるような働き方ができる職場が増える」「介護を職業とする人が正当に評価・待遇され、介護職が離職の少ない誇れる仕事になる」ことなどを掲げ、具体的な制度や政策を模索するのが狙いだ。介護に当たる家族も、介護を仕事とする職員も仕事を辞めないで済む社会を目指す。