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【暮らし】<ストップ がん離職> 後遺症、就労の壁に

2016/03/28

 15歳以下で発症する小児がんの経験者は、がん克服後も「晩期合併症」と呼ばれる後遺症のため、就労に苦しむケースが少なくない。新潟市ではNPOが喫茶店を経営して経験者を雇うなど、自立支援が本格化している。

◆小児がん経験者、働きながら訓練

 「ホットコーヒー1つ、お願いします」。新潟市の繁華街にある20階建てビル「新潟日報メディアシップ」1階のカフェ。店員の小児がん経験者の女性(26)は、笑顔で注文をこなした。

 中部地方の出身。小学6年のときに卵巣がんを発症し治療を終えたが、後遺症に苦しんできた。手術と放射線の影響で、高校時代から腸閉塞(へいそく)を頻発。20歳で保険会社の契約社員になったが、激痛で休職と復職を繰り返し、同僚のようには働けない自分に罪悪感を持ち、3年半で自ら退職した。

 病気を伏せたまま、派遣やアルバイトもしたが、女性ホルモンが十分に分泌されない後遺症で更年期のようなだるさがあり、周囲のペースについて行けず長続きしなかった。「一生働けないのか」。生きる自信を失いかけた昨年、小児がん経験者の交流会でカフェを見学。生き生きと働く経験者の姿に勇気づけられ、今年2月から働き始めた。

 同僚の店員はみんな、小児がんを経験した20~40代。仲間が近くにいる安心感と、接客という適度な緊張感の中で働けるのがうれしいという。「社会に自分の居場所があるのがとてもありがたい」。給料で来年の正月、1歳のめいにお年玉をあげるのが今の目標だ。

 カフェは、小児がん経験者支援団体の認定NPO法人「ハートリンクワーキングプロジェクト」が3年前に開いた。就職できなかったり、離職したりした経験者を正社員として雇う。カフェで訓練した上で民間企業などに就職し、経済的な自立を目指す。これまでに3人が、新潟県内の商社や自動車整備工場などに巣立った。

 カフェ開設に尽くしたNPO副理事長の林三枝さん(63)は、自身の長女も小児がんを患った。カフェを開いたきっかけは、小児がん経験者の親たちの声。後遺症のために働けず、成人後も多くの親が生活費や治療費を負担していた。

 人間関係を身に付ける学童期に長期入院したため、コミュニケーションが苦手な人も。障害者手帳を取得できずに障害者枠で就職できなかったり、成人後は小児の医療費助成が打ち切られたりし、「制度の隙間に置き去りにされている」と訴える。

◆自立した生活へ仕組みづくりを

 小児がんは年間約2500人が発症。医療の進歩で現在は約8割が治り、治療を終えた人は国内に10万人いるとされる。成長段階で、大人に比べて強い抗がん剤などで全身治療をするため、後遺症が長く続いたり、数10年後に後遺症が出たりするケースもある。

 厚生労働省の研究班が2012年に小児がん経験者に実施したアンケートによると、回答した239人(平均年齢24歳)のうち112人(47%)が低身長や記憶力低下、不妊などの後遺症を発症。学生以外の165人のうち、働いていない人は33人(20%)に達し、その多くに後遺症があった。そのほとんどが「経験者に理解のある職場があれば、ぜひ働きたい」と答えた。

 同NPO理事の堀部敬三・名古屋医療センター小児科部長(63)は「就労の難しい経験者が自立して生活していける仕組みが必要」と指摘する。

(山本真嗣)

客にコーヒーなどを運ぶ小児がん経験者の店員たち=新潟市の新潟日報メディアシップで
客にコーヒーなどを運ぶ小児がん経験者の店員たち=新潟市の新潟日報メディアシップで