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【暮らし】職場でカバーしあう視覚、聴覚障害者

2016/03/18

 耳に障害のある女性と、目に障害のある女性二人が同じ職場で出会い、障害をカバーしあって仕事をこなしている。「私たちは友人であり、同志でもある」。それぞれの目や耳となり、今や欠かせない存在だ。助け合いの気持ちが同僚にも広がっている。

 三人は、豊田通商の特例子会社「豊通オフィスサービス」(名古屋市中村区)に勤める桜井あゆみさん(50)と高島道子さん(44)、吉田清恵さん(45)。

 桜井さんは生まれつき耳が全く聞こえず、高島さんと吉田さんはともに二十歳を過ぎてから病気で視力を失った。コミュニケーションが取れるのは、桜井さんが二歳ごろからの猛訓練で「口話(こうわ)」を身につけているから。自分の声が聞こえなくても、言葉を発することができる技術だ。

 三月上旬の午前九時前。桜井さんを先頭に、三人が腕を取り合って同社のビルの中にある売店を訪れた。職場のある四階から売店の十三階までのエレベーターでの移動は、目の見えない人にとっては大変だ。到着音だけを頼りにせざるを得ないが、桜井さんが先導すれば簡単だ。

 売店を訪れた目的は、おやつのパンなどの購入。「ソーセージ入りとかツナポテトのパンがありますよ」。二人に説明する桜井さん。お好みのパンやお茶のペットボトルを選び、レジへ向かった。二人は「桜井さんのおかげで簡単に買えるようになりました」と喜ぶ。

 一方の桜井さんは、相手の唇の動きを読んで、健常者と変わらないほど会話ができる。ただ、社内放送は分からず、会議などで発言者が次々変わると会話に付いていけない。二人が桜井さんに内容を伝えている。

 それぞれを支援しあう三人の関係は、二〇〇六年に始まった。

 特例子会社は、障害者雇用を促進するために設立され、同社の従業員八十八人のうち三十七人に障害がある。桜井さんは、給料明細の発送作業などを担当し、鍼灸(しんきゅう)マッサージ師の資格を持つ高島さんと吉田さんは、社員向けのマッサージが主な業務だ。仕事内容は違うものの、パソコンが得意な桜井さんに当時の上司が「パソコンに不具合があったらサポートしてあげて」と勧めた。

 高島さんは当初、「目の見えない人と耳の聞こえない人で、サポートなんて成り立つのかしら」と疑問だった。耳の聞こえない人は、マスクをした人の言葉は唇が読めないため理解できないなど、言われれば当たり前のことも分からなかった。「桜井さんが近くにいるからこそ、他人への想像力や共感が生まれてきた」と言う。

 桜井さんは、ろう学校ではなく普通校に通い、高校二年生のときに弱視の女子生徒と同じクラスになった。教壇の正面が指定席になった二人は、自然と仲良しに。女子生徒が板書に手間取っているのを目にし、ノートを貸してあげるなどした。「その経験のおかげで、自分とは違う障害の人がどんなときに困るのか想像できるようになった」と話す。

 三人の絆が深まるにつれ、同僚たちにも変化が表れてきたという。上司の瀬口公一郎さん(44)は「他の社員にもいい影響があり、自然にサポートしようという意識が広がっている」と語る。

 (諏訪慧)

日頃からカバーしあう(左から)吉田さん、高島さん、桜井さん=名古屋市中村区で
日頃からカバーしあう(左から)吉田さん、高島さん、桜井さん=名古屋市中村区で